Role
Model

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どんなときも研究を続けていくと、その先に必ず見えてくるものがある

埼玉大学大学院理工学研究科

戦略的研究部門教授

菅沼 雅美

研究者を目指したきっかけは?

研究補助員をしていたときに夫の転勤が決まり、いざ研究をやめようと思ってもできなかったんです。研究が思いのほか楽しくて、給料や身分など関係なく、ずっと研究を続けていきたいと思いました。成功でも失敗でも自分のやったことがそのまま結果となって出てきて、次はこうやってみようと考えたりするのが面白かったんです。研究者として生きていこうと決意した
のはそのときですかね。

現在はどのような研究をしていますか?

日本独自のがん予防薬を作ろうという研究が35年前に始まり、その中から私が今も行っている“緑茶によるがん予防の研究”が生まれました。いろいろな先生との共同研究によって、毎日10杯以上の緑茶を飲むとがんを予防できると証明することができました。そして、緑茶ががん細胞を硬くして転移を抑制することもわかってきました。現在は、このメカニズムを解明、さらに発展させて、がん細胞を硬くする物質が転移を抑制する新しい化合物になるかについて研究をして、治療をした人の再発予防にも役立てていこうと考えています。

研究の面白いところとは?

研究仮説を実験で証明できたときには、大きなやりがいを感じます。こうした研究室の中で起きたことだけでなく、世界中の 研究者とのたくさんの出会いも研究をしていたからこそ得られるものです。がんの細胞の硬さを研究しているアメリカの研 究者とは長い付き合いで、日本に来たときはいつも一緒にお寿司を食べに行っています。

研究をするうえで心がけていることは?

良い結果が得られなくて苦しいときも、常にオリジナリティーを大切にしています。緑茶によるがん予防を発表した当初、国 内での反応はいまひとつでした。ところが、イギリスの雑誌に論文が取り上げられ、オーストラリアからテレビ取材を受けるな ど、海外では高い評価を受けました。今では世界中の研究者が緑茶に注目して、私の研究室にもタイ、バングラデシュや
韓国などさまざまな国から研究に来ています。

研究をどのように社会に役立てていきたいですか?

「緑茶によるがん予防」という講演をすると、一般の方も興味をもって自分の生活に生かしたいと言ってくれます。がんにな ると、食生活が乱れていたのではないかなど、何か悪いことをしたからがんになったと思いがちです。でも、がんというのは 誰でもなる可能性があるんです。健康なうちにがんは予防できることを知っておくことが大事ですね。これまで得たがん予 防の知識を紹介して、皆さんの役に立つことができたらと思っています。

これから研究者を目指すあなたへ

なかなか成果が出ないときでも、どんなときも自分の研究を楽しみながら継続していってください。上司に教えてもらった研 究者にとって必要な4つのG(ドイツ語)があります。Gesund(健康)、Geduld(忍耐)、Geld(お金)、Glück(幸運)です。な かでも、研究を続けるには、心と体の健康が一番重要だと思います。