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連絡先
〒338-8570
埼玉県さいたま市桜区下大久保255
埼玉大学大学院
理工学研究科物質科学部門
工学部応用化学科
/応用化学プログラムコース
電気電子物理工学科・応用化学科棟
3号館 5階
根本 直人
nemoto(@)mail.saitama-u.ac.jp
ご連絡の際は、@の( )を外してください。

研究テーマ

根本研究室では進化の原理を利用した分子機能創出および機能創出メカニズムの研究(進化分子工学)をしています。
特に世界に先駆けて開発したペプチドやタンパク質の試験管内高速進化技術である”cDNA display法”は従来のmRNA display法の安定性と操作性を向上させることで、選択条件の幅を飛躍的に拡張し、従来技術では取得できない機能分子の取得に成功しています。現在、更なる高親和性ペプチドアプタマー取得に向けたスクリーニングのハイスループット化と新規酵素の進化スクリーニング系開発を中心に生命の起源、アストロバイオロジーといった極めて基礎的かつ根源的な問題にも取り組んでおります。

進化分子工学とは

「天然で行われてきた分子進化の過程を実験室の中で超高速化し、生物がもっているような高機能の分子を目の前で進化させてつくり出すという新しいバイオテクノロジー」
伏見譲「試験内自然淘汰型進化リアクター」人工知能学会誌 Vol.19, (2004)より。
 これは日本における進化分子工学の第一人者 埼玉大学名誉教授の伏見先生のかかれた解説文の中の一節です。

その根底には生物学と物理学(おそらく化学も)を同一(地続きの)の科学的基盤に載せ、全く新しい機能材料(生体高分子)を創出するという願いがあります。 現在、ナノバイオテクノロジーの時代を迎え、まさに学際的、学問横断的に一歩一歩具体化しつつあります。

1.進化工学による生体機能分子の創製

---特に低分子化合物に特異的結合するペプチドアプタマーの創製

現在、抗体は医薬品や各種の診断に幅広く利用されなくてはならないものです。しかしながら、低分子(ここでは環境ホルモンや毒素などの有害な化合物を想像してください)は小さすぎるためこれを認識する抗体がありません。そこで、進化分子工学によりこのような低分子を認識するアプタマー(またはスキャフォールド)を開発したいと考えています。

2.新規酵素のin vitro selection系の開発

酵素を用いて複雑な化学反応を室温で効率良く実現することは人類の夢であり、将来ますます重要な課題になることでしょう。

細胞を用いて酵素を進化させる場合には当然、細胞の成長を妨げるものはできません。そこで細胞に依拠せず人間に必要な化学反応を自在に制御する酵素を試験管内で進化させたいと考えています。現在、最も膨大なライブラリから淘汰できる技術であるmRNA display法によって人工的に酵素を進化させた例は今まで一つしか成功していません(Seelig B, Szostak JW. Selection and evolution of enzymes from a partially randomized non-catalytic scaffold. Nature, 448:828-31, 2007). 我々はmRNA display法を安定化し、ピューロマイシン・リンカーにいろいろな工夫をすることで様々な選択を可能にしたcDNA display法を開発してきました。これらにさらに工夫を加えることで以下のような酵素進化を実現するための研究をしています。

1)タンパク質分解酵素サブチルシンSubtilisinの進化

サブチルシンは洗剤等に入っている産業用酵素の代表的なものです。今回、108以上という極めて大規模なライブラリからcDNA displayを用いたin vitro selection系を開発しています。さらに高機能化なサブチリシンの取得を目指しています。

2)T4 RNAリガーゼの耐熱性・安定性の進化

T4 RNAリガーゼは次世代高速シーケンサーなどで利用される酵素です。この酵素の安定化は産業用酵素として利用を考える際に極めて重要です。サブチルシンは分解酵素ですが、T4 RNAリガーゼは核酸同士を連結する合成酵素です。cDNA displayをこのような酵素のin vitro selectionにも使えるよう研究しています。

3.新規酵素創出のための大規模スクリーニングシステムの開発

- ナノテクノロジーとバイオの融合 -

東京大学工学研究科 一木隆範研究室(ナノテクノロジー)、東京大学薬学研究科 船津高志研究室(1分子イメージング技術)との共同研究の下で100万種類以上の酵素ライブラリを我々のcDNA display技術でチップ上の小さな“試験管”の中で発現、活性を評価するシステムを開発しています。今後環境に優しい優れた機能をもつ酵素をスクリーニングするためには不可欠の技術と考えています。まさにバイオナノテクノロジーと進化工学の融合といえます。 その他に、ペプチドで世界最小の酵素が作れないかを検討中

4.人工細胞構築へ向けた進化工学的アプローチ

リポソーム(人工2重脂質膜)をモデルに細胞とは何か、また、細胞様機能材料として薬剤運搬システム(DDS)や分子スクリーニングシステムへの応用を考えています。今年(2012年)、リポソームに結合する新機能ペプチドの取得にM2で卒業した小林省太君が成功しました。(今後が楽しみです)

5.無細胞翻訳系と新開発タンパク精製法を用いた迅速なタンパク質-タンパク質相互作用 解析の研究

In vitro selectionによって標的分子に結合すると予想される多数の候補分子を得ることができる。しかし、淘汰されてきた配列は全てが同じような親和性をもっているわけではない(総じて、予期せぬ非特異的吸着も多い)。そこで、実際に結合の程度を迅速に測定することが必要となる。しかし、ペプチド合成やタンパク質合成はコストも時間がかかるためこの解析は一般に容易ではない。私たちはselectionと同じく、この解析にも無細胞翻訳系を用いて迅速かつ容易に解析する方法を開発してきました。より簡易に評価できる1)の方法からより定量的な2)、3)まで複数の方法を組み合わせて効率的に評価することが可能になりました。

1) 新規ピューロマイシン・リンカーを用いたPull-down法による簡易な分子間相互作用解析 (簡便かつ安価!)

簡便な操作で従来のPull-down法とは異なった切り口で、無細胞翻訳系と新規のピューロマイシン・リンカーを用いてin vitro selectionしてきた候補分子と標的分子が相互作用するか否かを判定する。(以下の論文を参照してください)
“A pull-down method with a biotinylated bait protein prepared by cell-free translation using a puromycin-linker” Mochizuki, Y., Kohno, F., Nishigaki, K., Nemoto, N. Anal. Biochem. (accepted)

2) 新規ピューロマシシン・リンカーを用いた蛍光相関分光法(FCS)による分子間相互作用解析

1)とは異なるピューロマシシン・リンカーと無細胞翻訳系を用いて調べたいタンパク質やペプチドを簡単に迅速に合成し蛍光ラベル化する。蛍光相関分光法(和光で扱う浜ホト製FCS装置)に必要な量を合成できることから、多検体を1)の方法よりも定量的にKd等を測定できる。(論文準備中)
・2012年度日本分子生物学会で発表予定。

3)新規ピューロマイシン・リンカーを用いた表面プラズモン共鳴(SPR)解析

表面プラズモン共鳴は、現在、ラベルフリーで解析が可能なことから最も広く利用されている解析方法の一つです。しかし、解析したい分子のチップ固定化が大きな課題であり、調べたいタンパク質やペプチドの調整もコストと時間がかかり、ハイスループット化の妨げになっています。私たちはピューロマイシン・リンカーを工夫することで無細胞翻訳系から目的のタンパク質を迅速に精製すると同時に固定化のためのビオチンを付加させる方法を開発しました。(論文準備中)

以上の3つの分子相互作用解析技術を組み合わせて迅速に低コストで標的分子に結合する分子を解析し探索していきます。

6.生命の起源に対する理論的、実験的研究

なぜ我々生命がこの地球上に誕生したのかを物理と化学の言葉で理解したいと考えております。最近は合成生物学的なアプローチで様々な角度からこの問題に取り組むことが可能になってきました。我々は分子進化におけるウイルス型分子の役割に注目しタンパク質合成系の成立、最初の遺伝子に関する研究を行っています。今後、分子システムとしての進化が興味深いと考えています。

1)4種類のアミノ酸からなるRNA結合ペプチドの淘汰

タンパク質は20種類のアミノ酸からできています。しかし、生命が誕生した最初から20種類のアミノ酸からなるタンパク質があったのでしょうか?原始地球の環境を模した化学進化実験、アイゲン理論や池原らの理論からG(グリシン)、A(アラニン)、D(アスパラギン酸)、V(バリン)の4種類が最初にアミノ酸をコードしていた可能性が示唆されています。それではこの4種類のアミノ酸からなるペプチドはどのような機能を持ちえるでしょうか?現在、合成生物学的に試験管内進化実験で4種類からなるペプチドの機能創出を研究しています。

2)自己複製リボザイムの補酵素の進化

自分自身のRNAを鋳型にして相補なRNAを合成するリボザイムがBartelらによってランダムなRNAライブラリの中からin vitro evolutionによって得られてきている。さて最初のタンパク質はどのように出現してきたのであろうか?これは翻訳系の成立ともかかわり最大の謎の一つである。私たちは初期のタンパク質がRNAの複製を加速させる形で進化させてきたという仮説(Nemoto & Husimi, 1996)をたて、その試験管内進化実験系を確立してきています。