植物の細胞伸長の制御に関わる未知因子の探索

菊池  馨      


植物・植物細胞が伸長を制御する仕組み

  自力で動くことのできない植物には、環境や周囲に合わせて細胞の形を変化させる「未知のメカニズム」があります。 例えば、細く長く伸びる茎や根では、細胞は縦に長い円筒形を保って伸長するように制御されています。 この働きにより、植物は細胞レベルで茎や根を細くまっすぐに伸ばすことができます。 私はこのメカニズムに関わる分子として、植物特有の糖タンパク質である「アラビノガラクタン‐プロテイン (AGP) 」に注目しています。

AGPとは?

 AGP は植物細胞壁(細胞の外側)に含まれる糖タンパク質です。AGPが働くためには「糖」の部分が特に重要で、 AGPの糖部分に特異的に結合する薬剤を処理することで、AGPの機能を阻害できます。 この薬剤でAGPの働きを阻害した植物では、根の細胞が膨らみ、細く長くなるはずの根が太く短くなることが知られています。 このことから、AGPは植物の細胞伸長を調節するメカニズムに欠かせない分子であると考えられます。 しかし、AGPがこのメカニズムの中でどのように働いているかはわかっていません。 ただし、これまでの研究で細胞の外側のにあるAGPを薬剤で阻害すると、 細胞の成長に関わる細胞内部の構造も同時に変化することが知られています。 そこで、私はAGPの情報が「未知因子X」により細胞内に伝えられることで、 細胞の伸長が制御されるという仮説を考えています。 AGPの情報を細胞内に伝える未知因子Xを探し出すことで、細胞伸長メカニズムを解明したいと考えています。




実験内容

(1) AGPの働きを弱く阻害した時に根が短くなりやすい植物、逆に長くなりやすい植物の選抜
 ランダムに遺伝子が破壊された植物集団から、 AGP阻害時に、もっと根が短くなりやすい植物、逆に長くなりやすい(あまり阻害されない)植物を選抜します。
⇒選抜された植物では、AGPが受けた情報が細胞内にうまく伝わっていないかもしれない。
 (①AGPの変化が過剰に伝わっている、②AGPの変化が伝わりにくくなっている。)
⇒選抜した植物では、AGPの情報を伝える未知の因子Xの遺伝子に異常があるかもしれない。



(2) 選抜した植物で異常となっている遺伝子を探す
 DNA シーケンサーという機械を使うことで、植物の全遺伝子の配列を読み取ることができます。 選抜した植物の全遺伝子と通常の植物の全遺伝子を比較することで、 選抜植物のどの遺伝子に異常があるかを特定することができます。 異常がある遺伝子にAGPの情報伝達に関わる未知因子Xがコードされていると考えられます。 未知の因子Xが発見されることで、AGPの関わる細胞伸長のメカニズムがわかると期待されます。