植物のGDP-マンノースの合成に関わるKONJACタンパク質の役割

                                         

                                                             植物糖鎖生物学研究室   阿部 桃太

 

〇研究の背景

植物は生きていく過程で多くのストレスを受けて います。例えば、私たちは水を求めて移動することができますが、植物は乾燥に耐えなければいけません。また、私たちは日差しが強い日には帽子を被るか家に 閉じこもれば良いのですが、植物は逃げたり隠れたりすることができません。植物は強い光にさらされると「活性酸素種」という細胞にダメージ を与える物質が発生してしまいます。そこで、植物は細胞内に「ビタミンC」を蓄積させ、活性酸素種を除去しています。つまり、植物が乾燥や強い光、低温といったストレスの下で生育するには、ビタミンCが必要なのです。
 ビタミンCはブドウ糖である「グルコース」から、いくつかのステップを経て合成されます。中でも重要なのが「マンノース1-リン酸(Man 1-P)」という物質から「GDP-マンノース(GDP-Man)」という物質をつくるステップです。ビタミンCの量は、このGDP-Manを合成するステップで決まると考えられています。このステップの反応を行うのが「VTC1」という酵素です。私達の研究室では、VTC1に加えて、KJC1というタンパク質がこのステップに関与することを発見しました。




〇研究の目的と実験内容

KJC1タンパク質が具体的に何をしているのかはまだ解明されていません。私は、KJC1タンパク質の機能の解明と、このステップに関わる未知のタンパク質の存在を明らかにすることを目的として研究を行っています。





〇今後の展望…将来はこんなことにも?

KJCタンパク質の機能やGDP-Man合成に関わる未知の物質の存在を特定すれば、植物がどのようにGDP-ManやビタミンCの量をコントロールしているのかを明らかにすることができると考えています。将来的にはビタミンCを多く作る(=栄養価の高い)植物ができるかもしれません。また、ビタミンCを多く作らせることで、乾燥した地域や日差しの強い地域でも育てられる植物を作り出せるかもしれません。

                                                                       作成日 2020.4.1

 

 ●補足〈詳しく知りたい方へ〉

・ビタミンCは強い光や乾燥だけでなく、低温ストレスや塩ストレス、浸透圧ストレスの耐性に関わることが知られています。

GDP-ManはビタミンCだけでなく細胞壁のグルコマンナンやスフィンゴ糖脂質、N-結合糖鎖などの原料物質です。

・私たちの研究室では、GDP-Man合成に関わる新規の因子としてKJC1だけでなくKJC2というタンパク質を発見しました。KJC2KJC1のマイナーなアイソフォームだと考えています。詳しく知りたい方は下記の論文をご覧ください。

Sawake et al., 2015. KONJAC1 and 2 are key factors for GDP-Mannose generation and affect L-ascorbic acid and glucomannan biosynthesis in Arabidopsis. Plant Cell Dec;27(12):397-409)