現在、冨岡研究室では "光を感じる蛋白質" について研究しています。代表的な光受容体はロドプシンという色素蛋白質です。ロドプシンは脊椎動物の網膜の桿状体に存在する光感受性色素で、ヒトが暗所でも視力を保てるのはロドプシンのおかげです。1971年、Oesterhelt
と Stoecknius は、高度好塩性の古細菌 Halobacterium salinarum (当時は Halobacterium halobium と呼称) にもロドプシンによく似た蛋白質が存在することを発見し、"バクテリオロドプシン" と命名しました。その後の研究により、H. salinarum はバクテリオロドプシンを含めて次の4種の光感受性蛋白質をもっていることがわかりました。
・バクテリオロドプシン (bacteriorhodopsin, bR)
機能:細胞内側から細胞外側へH+を輸送する "光駆動プロトンポンプ"
・ハロロドプシン (halorhodopsin, hR)
機能:細胞外側から細胞内側へCl−を輸送する "光駆動クロライドポンプ"
・センサリーロドプシン (sensory rhodopsin, sR または sRT)
機能:"正の走光性" シグナルを halobacterial transducerT(HtrT) へ伝達する光センサー
・フォボロドプシン (phoborhodopsin, pR または sRU)
機能:"負の走光性" シグナルを HtrUへ伝達する光センサー
これら4種の膜蛋白質は、7回膜貫通型αヘリックス構造であること、発色団としてビタミンAアルデヒドのレチナールを有することなど、複数の共通点をもっています。さらに、ロドプシンは高度好塩菌だけでなく、緑藻類や海洋細菌にも存在することが最近になってわかりました。膜蛋白質は生体膜を隔てたエネルギー変換、物質輸送、情報伝達など、生命にとって極めて重要な機能を担っており、その構造解析や機能解析は世界で盛んに行われています。
冨岡研究室では高度好塩菌はもちろんのこと、大腸菌を利用した蛋白質発現系も取り扱っており、新たな機能を有したロドプシンを発現させるべく、日夜研究に勤しんでいます。
最近ではノーベル賞でも話題となった緑色蛍光蛋白質 GFP (green fluorescent protein) も取り扱い始めました。
bRの立体構造モデル 中央に見える黄色モデルはGヘリックスの Lys216に結合した発色団レチナール (NMR structure of the all-trans retinal in dark- adapted Bacteriorhodopsin; PDB entry 1R2N) |
GFPの立体構造モデル 中央に見える白色モデルは、Ser65-Tyr66-Gly67の トリペプチドから形成された発色団の p-hydroxybenzylideneimidazolinone (green fluorescent protein from Aequorea victoria; PDB entry 1EMA) |
(reference; RCSB Protein Data Bank)