株式の話

株式の歴史

最初の近代的な株式会社は1600年にイギリスで設立された東インド会社であると言われている。この会社は東南アジア・中国・インドとイギリスとの貿易を引き受ける大貿易会社へと成長していった。しかし、株式会社は順調に発展したわけではなかった。

17世紀のはじめにイギリスではバブルの語源となる「南海泡沫事件」と呼ばれる事件が発生する。これは南アメリカの開発を目的とした南海会社の株式を巡る事件であった。ほとんど現実味のない開発計画のもとに設立された会社であったが、その株式は噂に乗じて暴騰していく。これがロンドンでの株式ブームを生み出し、数多くのインチキ株式会社が設立され、それらの株価も急騰していく。やがて会社の実態が明らかになり、株式は紙くずとなってしまう。この事件は政府の高官をも巻き込んだ一大スキャンダルであった。この苦い経験をもとにイギリスは長い間、株式会社の設立が原則として禁じられてしまう。

とはいえ、産業革命のはじめごろまでは大きな設備を有する企業は少なかったために、株式会社の必要性はそれほど大きくはなかった。つまり、繊維産業のような軽工業の設立のためには、個人の資金でもなんとかなったのである。

しかし、19世紀の後半から発展を遂げる重化学工業の場合には、企業の設立には巨額の資金が必要で、個人の資金では十分に対応することができなかった。 株式を発行して広く市中から資金を集めなければ、短期間で重化学工業を発展させることは不可能であった。イギリスは株式会社制度を禁止していたために、世界で最初に産業革命を経験した国でありながら、重化学工業化には遅れをとってしまう。

株式会社制度をいち早く普及させたのはドイツであった。後発資本主義国であったドイツは、株式会社制度を活用して、重化学工業や鉄道網の実現を短期間のうちになしとげてしまう。こうして19世紀の終わりになると、ドイツが世界一の工業国となり、やがてアメリカもイギリスを追い抜いていくことになる。

株式のメリットとは

株式を発行して資金を集めるメリットとはどこにあるのか?資金を集める側から見てみよう。

(1)株式を発行して集めた資金は返却のする必要がない(ただし配当を払う必要はある)。
(2)幅広い人間から大量の資金を集めることができる。

株式を買う側からメリット(買いやすい理由)を見ておこう。

(1)少額の出資が可能。
(2)販売することが可能(=いつでも出資者をやめられるということ)。
(3)有限責任であること(=会社の借金を支払う必要はない)。
(4)配当や優待を得ることができる。

このように多くのメリットがある。

株主の権利

株を所有していることで株主に発生する権利を整理しておこう。

(1)配当請求権
(2)株主総会での議決権

上場している株式会社は株主総会を開催する。そこで決められるのが、配当の額、役員(取締役)、定款(会社の規則)の変更、などである。株主は所有している株数に応じた議決権を有している。
(3)会社が解散する時の残余財産請求権
株主は会社の所有者である。会社が倒産などによって解散する時には、まず他人からの借り入れが返済される。その後で財産が残る場合には、株数に応じて財産を分配することになる。

インカム・ゲインとキャピタル・ゲイン

配当のように所有していることで収入が生まれることを「インカム・ゲイン」と呼ぶ。もちろん株主総会で配当を払わないことが決定されることもある。なお、最近では変わりつつあるが、配当が極めて低いことが日本の株式の特徴であるとされてきた。

売買によって得られる儲けのことを「キャピタル・ゲイン」と呼ぶ。要するに、安く買って高く売れば「キャピタル・ゲイン」が生まれるのでる。逆に損失が生じた場合には「キャピタル・ロス」という言う。

日本の場合にはこのキャピタル・ゲインを目的にして投資家は株式を購入してきた。しかし、配当を目的とする投資家や、最近では優待制度による特典を目当てにして株式を購入する人も増えている。

資金の区分

現代の企業の資金の区分をしておく。

自己資本:内部留保・株式
他人資本:社債・金融機関からの借り入れ

自己資本は名前のとおり返済の必要がない資金である。貸借対照表では「資本」欄に記入される。

他人資本は返済の必要がある資金である。貸借対照表では「負債」欄に記入される。金融機関からの借り入れを「間接金融」と呼び、株式や社債による資金の調達を「直接金融」と呼ぶ。

売買の実際

株式は必ずしも上場されるとは限らない。上場した株式を売買する場が株式市場である。いくつも種類がある。 日本を例に挙げて説明しておこう。
東証、大証など
新興市場:ヘラクレス、マザーズ
他に店頭市場というものもある(ジャスダック)。

上場されている株式を株式市場で売買できるのは証券会社のみ。 個人は証券会社を通じて注文を出すことになる(デイトレードも同じ)。

市場の空いている時間 月曜から金曜
前場(寄り付き・前引け)  後場(後寄り・大引け)

投資尺度

  1. 配当利回り=配当÷株価
    高度成長期に日本の株式会社は株式の持ち合いを実行した。その結果、配当を高めなくとも株が売却されなくなり、企業は利益を配当として株主に還元せず、内部留保を確保できるようになった。内部留保は設備投資や研究開発費に使われた。それは高度成長期の経済にプラスに作用した。
    日本の配当利回りは低いので、今日、配当利回りは重要な投資指標ではなくなっている。しかし、日本経済も低成長となってきたために、近年では配当を高める動きが出始めている。

  2. PER(株価収益率)=株価総額÷利益=株価÷1株利益

    利益と株価とを比較したもの。株価が何年分の利益に相当するか、という指標である。PERが低ければ、割安な株ということができる。今日ではこれが最も重要視される投資尺度である。東証1部上場企業の場合には、20から30ぐらいが多い。

    バブル期にPERは70ぐらいにまであがった。

  3. PBR(純資産倍率)=株価総額÷「資本」

    PERが会社の業績のフローからみた指標であるのに対して、PBRは「資本」というストックからみた指標である(厳密には資本ではなく純資産であるが、資本とほぼ同じといってよい)。PBRは低いほうが割安の株ということになる。

    通常、PBRは1より大きい。なぜならば、もしPBRが1より小さければ、その株式を全て買収して、資産を売却することで儲けることが可能になってしまうからである。しかし、昨年は東証1部上場企業の約半数がPBR<1となっていた。PBRがあまり低い企業は買収のターゲットにされたりする(ユシロ、ソトーなど)。

    貸借対照表の構造:貸借対照表は企業の財産の状態を示した表である。大きくは以下のように3つの部分からなっている。

    資産負債
    資本

    左側の資産は、土地、建物、機械などの固定資産と、現金や預金などの流動資産とからなっている。

    少々分かりにくいのが右側。左側の財産を、誰かに返却しなければならない負債(要するに借金)と、返却する必要がないその企業の持分(要するに株主のもの。これを「資本」と呼ぶ)とに分けたのが右側である。

    補足説明:ある中年サラリーマンの財務諸表を考えてみよう。銀行から借りた2000万円の住宅ローンと汗水流して貯金した1000万円とをつぎ込んで、唯一の財産である3000万円の一戸建ての家を購入したとする。
    資産(一戸建て)=3000万円負債(住宅ローン)=2000万円
    資本=1000万円
    彼はこれから少しづつローンを返済していくであろう。仮に5年間で1000万円のローンを返済できたとしよう。一戸建ての資産価値が目減りしていなければ、次のようになる。
    資産(一戸建て)=3000万円負債(住宅ローン)=1000万円
    資本=2000万円
    ローンが完済すれば、資産=資本となるわけだ。
    右側はかならず資産と一致する。つまり、資産=負債+資本となる(というよりも、資本=資産−負債として決定される)。さて、資本は株主の財産に相当する。だから、資本は「株主資本」とも言われる。

    新しく作られた株式会社の例で考えよう。20億円を株式で調達し、10億円を金融機関から借りたとする。この金額30億円で土地を買い、工場を建てたとする。創業時の貸借対照表は次のようになる。
    資産=30億負債=10億
    資本=20億
    1年経過して利益が2億円出たとしよう。この利益を会社は流動資産として持っていたとしよう。仮に負債額に変更がなければ、貸借対照表は次のようになる。
    資産=32億負債=10億
    資本=22億
    もちろん、企業によっては利益を借金の返済にあてることもある。そうすると、資産は30億円のままで、負債8億円、資本22億円となる。

  4. 株主資本比率(自己資本比率)=資本÷資産

    株主資本比率は投資尺度ではないが、会社の安全性を示す指標として重視されるのでここにあげておく。株主資本比率が高い企業はつぶれにくい企業と言える。「財務の良い企業」という言い方があるが、株主資本比率の高い企業のことである。株主資本比率が低く、負債割合が大きい企業は金利の上昇局面で負債部分が拡大していきやすい。また、いざという時に使える資本が少ないことを意味するのである。

テクニカル分析

上で見てきたような投資尺度は、企業の実態から株価の割高割安を判断したものである。こうした分析の仕方をファンダメンタル分析と呼ぶ。これに対して、これまでの株価の動きから将来の株価の動きを予想するテクニカル分析と呼ぶものがある。

  1. ロウソク足(トンボ、たくり足.....)
  2. 移動平均(ゴールデン・クロス、デッド・クロス)
  3. サイコロジカル・ライン
  4. RSI
  5. 水準計算(倍返し.....)
  6. その他。。。。。。。

怪しい分析手法が五万とある。そもそもテクニカル分析なんてものに「まともな」根拠があるわけではない。しかし、まったくのデタラメというわけではない。なぜならば、テクニカル分析の結果が投資家心理そのものに影響を与えてしまい、それが投資行動に、ひいては株価に影響を与えてしまうからである。