Last Modified : 2024年7月21日 (日) 11:48 am

1次元量子Biナノワイヤー熱電変換素子の巨大ゼーベック効果の実証



本研究の全体構想

  超低炭素社会・省資源社会を目指したクリーンエネルギー需要が高まっている中、熱(温度差)から電気への直接エネルギー変換を可能にする熱電変換現象に着目している。そのエネルギー変換効率は、ゼーベック係数S[V/K],抵抗率ρ[Ωm],熱伝導率κ[W/mK]の3つ物性値(熱電パラメータ)を用いた性能指数z=S2/(ρκ)[K-1]に、絶対温度T[K]を乗じた無次元性能指数zT[-]を用いて見積もられている。現状では、ZT〜1程度,エネルギー変換効率は約10%であり、日本のエネルギー事情を考える上でzT向上の実証研究は特段の推進が求められている。ゼーベック係数Sは状態密度g(E)とエネルギーEの傾きに比例することから、zTを飛躍的に向上させるため熱電変換素子の構造を変える,つまり超格子やナノワイヤー構造などを採用し量子効果を取り入れ低次元状態密度を導入することで、飛躍的なゼーベック係数の向上が達成できるという理論的な指針が得られている(Hicks et al., Phys. Rev. B(1993))。これまでに2次元薄膜を使った実験でゼーベック係数の向上によってzT>2が報告されており、量子効果の導入はZT向上の戦略手法として国内外で広く展開されている。ここで、2次元材料よりも1次元材料で大きな改善が期待されており、従来よりも2桁大きな-1mV/K以上の巨大ゼーベック効果の発現が理論モデルより示唆されている(Y.-M. Lin et al., Phys. Rev. B(2000))。また、有効質量が小さなBi材料を採用したナノワイヤーでは、ワイヤー直径100nm以下で量子効果の導入が確実視されている。ワイヤー直径500nm以下の1次元量子Biナノワイヤー熱電変換素子を用いて、その物性値のワイヤー直径依存性測定より、巨大ゼーベック効果の実証とそのメカニズムを物理的な見地から解明していくことが本研究の目的である。


熱電変換の概念図

  3次元から1次元状態へのワイヤー直径依存性の連続性の観点から、ワイヤー直径500nm以下の連続的な測定結果を得るために、1次元量子Biナノワイヤー熱電変換素子の作製, ナノ加工による局所電極形成,1次元量子Biナノワイヤー熱電変換素子の物性値ワイヤー直径依存性測定を進め、その実験結果より巨大ゼーベック効果を実証する。特に低温領域では1次元量子密度導入の他にも、キャリアの平均自由行程の制限,キャリアの散乱プロセスの変化など、さまざまなキャリア輸送状況変化の可能性があるため、並行してモデル計算を進めて物理的に何が起こっているかを明確にしていく。独自技術で作製した1次元量子ナノワイヤー熱電変換素子にナノ加工を施し、ワイヤー直径・結晶方向などに着目し、そのワイヤー直径依存性から巨大ゼーベック効果の実証を行っていく。
 本研究グループでは、大きなアスペクト比を持つ光ファイバー作製技術にヒントを得て、石英ガラステンプレート中に封入された単結晶Bi製ナノワイヤー熱電変換素子の開発を進めている。


石英ガラス覆われたナノワイヤー熱電変換素子の作製手法

ナノワイヤー熱電変換素子の概要

1)最小ワイヤー直径20nmまでの作製が可能であること,2)ミリスケール長さ方向に一様な温度勾配を与えることができ、ゼーベック係数をはじめとする物性測定が可能になること,3)絶縁物に取り囲まれており理論に近い量子閉じ込め状態を実現できること,4)石英ガラスを透したX線回折から結晶方向を同定できること,5)Bi表面が酸化されず良好な結晶性と表面状態を保持できることなどが挙げられる。一方、Biは化学的に比較的不安定な材料であるが、集束イオンビーム(FIB)を用いた独自のナノ加工技術を用いることで、6)石英ガラステンプレート中のBiナノワイヤー熱電変換素子側面など任意の場所に数〜数十nm角の局所ナノ加工電極を取り付けることが可能となった。この技術を元に、以下の項目・手法で研究を遂行していく。


A.ナノ加工による局所電極形成
ワイヤー直径500nm程度からのナノ加工を予定しているが、ワイヤー直径が20nm,ワイヤー長さが1mmであると単純に内部インピーダンスが10MΩを越え、適切な物性測定は極めて困難となる。そこで、これまでビーム精度±10nmのデュアルFIBで培った独自のナノ加工技術に加えて、最近になって利用が加工となったビーム精度±1nmを有するArイオンビームを搭載したトリプルFIBを駆使し、測定するワイヤー直径に合わせて電極間インピーダンスが10kΩ以下になるよう、電極間距離を決定し、FIBを用いた局所ナノ加工電極を形成する。ワイヤー直径50nm以上についてはデュアルFIB,ワイヤー直径50nm以下の場合はトリプルFIBを用いて、ナノ加工による電極形成を行っていく。


ナノワイヤー熱電変換素子へのナノ電極加工レシピ

ナノワイヤー熱電変換素子への電極接続例

ナノワイヤー熱電変換素子側面へのナノ加工電極接続の例

ワイヤー直径212nmをもつナノワイヤー熱電変換素子側面へのナノ加工例

ナノワイヤー熱電変換素子へのホールバー接続によるホール測定概念図とナノ加工例

ナノワイヤー熱電変換素子からの電気信号取り出しの実例

B.1次元量子Biナノワイヤー熱電変換素子の物性値ワイヤー直径依存性測定
  ナノ加工を施した測定サンプルを用い、ワイヤー直径・結晶方向などに着目しながら4.2〜300Kの温度領域で図4に示すように交流4端子法による物性測定を行い、そのワイヤー直径依存性から巨大ゼーベック効果の実証を行っていく。複数本の電極が側面に取り付けられていることから、キャリア密度・移動度を評価するためにホール係数を,散乱因子を決定するためにネルンスト係数を測定することで1次元量子Biナノワイヤー熱電変換素子の詳細な物性評価も可能となる。


ナノ加工による測定サンプルの実例

さまざまな手法による電気物性測定例


本研究に関する最近の学術論文

Hiroyuki Morita, Taichi Arisaka, Mioko Otsuka and Yasuhiro Hasegawa, “Simultaneous transport coefficient measurements for individual bismuth wire embedded in quartz template applying nano-fabrication”, Applied Physics Express, Vol. 12, 011008 (2019)

Taichi Arisaka, Mioko Otsuka, Masayuki Tokitani and Yasuhiro Hasegawa, “Temperature dependence on carrier scattering process in polycrystalline bismuth”, Journal of Applied Physics, Vol. 126, 085101 (2019)

K Vandaele, M Otsuka, Y Hasegawa and J P Heremans, “Confinement effects, surface effects, and transport in Bi and Bi1-xSbx semiconducting and semimetallic nanowires”, Journal of Physics: Condensed Matter 30, 403001 (2018)

Taichi Arisaka, Mioko Otsuka, Yasuhiro Hasegawa, “Investigation of carrier scattering process in polycrystalline bulk bismuth at 300 K”, Journal of Applied Physics, Vol. 123, 235107 1-11 (2018)

Mioko Otsuka, Ryoei Homma, Yasuhiro Hasegawa, “Temperature dependence of resistivity and Seebeck coefficient of individual single-crystal bismuth nanowires of 345-nm and 594-nm diameters encased in a quartz template, Journal of Electronic Materials, Vol. 46, 2976-2985 (2017)

M. Murata, Y. Yamamoto, Y. Hasegwa, T. Komine, “Fabrication of a nanoscale electrical contact on a bismuth nanowire encapsulated in a quartz template by using FIB-SEM” , Journal of Electronic Materials, Vol. 46, 2782-2789 (2017)

Masayuki Murata, Atsushi Yamamoto, Yasuhiro Hasegawa, Takashi Komine, “Theoretical modeling of electrical resistivity and Seebeck coefficient of bismuth nanowires by considering carrier mean free path limitation”, Journal of Applied Physics, Vol. 121, 014303 1-10 (2017).

Masayuki Murata, Atsushi Yamamoto, Yasuhiro Hasegawa, Takashi Komine, “Experimental and theoretical evaluations of the galvanomagnetic effect in an individual bismuth nanowire”, Nano Letters, Vol. 17, 110-119 (2017)

Takashi Komine , Tomosuke Aono, Yuta Nabatame, Masayuki Murata, Yasuhiro Hasegawa, “Enhancement of Seebeck coefficient in Bi nanowires by electric field effect”, Journal of Electronic Materials, Vol. 45, pp. 1555-1560 (2016).

詳しくはこれまでの論文一覧より参照ください


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