「子育てと仕事」
 教育学部 特別支援教育講座 山中 冴子

  1. 仕事、結婚、出産の経緯
    私は現在、教育学部特別支援教育講座に所属し、主として特別支援学校教諭を目指す学生たちとともに特別支援教育学を学んでいます。日本の障害児教育研究運動に参加しながら、研究、実践、運動の有機的な繋がりを模索しています。研究では、オーストラリアのインクルーシブ教育や障害のある生徒のトランジションを専門としています。
    私は大学院博士後期課程在学中に結婚しました。今では同業者の夫は同い年ですが、学年は私が上でしたし、当時は収入もなく、将来の見通しも全く立たない状況でした。それでも、自分もそうして結婚したなどと周りの先生方から大いに励まされ、そうか!と・・・勢い余っての結婚でしたので、学費免除をはじめ県営住宅への入居など、様々な支援策を活用しての新婚生活でした。
    その翌年に私は埼玉大学に採用されたのですが、当時、夫は博士後期課程在学中でしたし、私も仕事に慣れるのに精一杯で、心身ともにひたすら緊張状態が続いており、3~4年は子どもをつくることが難しい状況が続きました。夫が今の勤務先に職を得て、私も仕事に慣れてきた頃、子どもをもつことが現実味を帯び、少し経って妊娠・出産に至りました。
    妊娠中の仕事は、つわりと思考停止状態(心身が出産に集中するためでしょうか)との戦いでしたが、無事、産休・育休に入ることができました。妊娠がわかってからは、教育学部の教職員の方々、特に所属講座の先生方から暖かいご支援をいただきました。「当時20代だったあなたを採用したときから、こうなることはわかっていた」「自分も今後長期休暇を取る可能性がある。お互い様」といったお言葉は本当に嬉しかったですし、職場復帰後も頑張ろうと、気持ちを引き締めました。

 

  1. 子育てと仕事の両立
    出産後はとにかくパニックの日々でした。娘は心底可愛いのですが、理屈が通用しない、こちらの予想が見事に裏切られる、自分の時間はゼロ、楽しもうと思いつつも、さらに力んでしまう日々でした。仕事柄、これまでの教育研究運動の中で垣間見ていた保育士の先生のお仕事を思い浮かべて、そろそろ娘の世界を広げてあげたいという思いも強くなり、娘が9ヶ月の頃に職場復帰しました。
    娘は3歳までそよかぜ保育室、その後は大学近くの幼稚園にお世話になりました。保育室は物的・人的環境が整っていて、暖かい生活基盤を丁寧に作っていただきました。大学内をお散歩中の娘に会えるのは、最高の喜びでした。幼稚園は共働き家庭にとってありがたい仕組み(完全給食・延長保育など)を多々導入しているところで、支援をフル活用させていただきました。
    とはいえこれは、娘の病気との戦いの始まりでもありました。講義中にお迎えの要請がかかることも少なくなかったですし、複数回、入院もしました。当日の休講を連発、翌日の予定も立たず、大学と病院の行き来も多かったです。学部内の委員会の仕事が多忙を極め、また、研究的にも大きな仕事が続き、子育てと仕事の両立には正直、大変苦労しました。夫も簡単には休めず、両親は現役で働いているため常に支援を求めることはできませんでした。そこでベビーシッターさんに入れ替わり立ち替わり入っていただきつつ、時間を無理やり捻出して、綱渡りのような生活を送りました。今現在もですが、子育ての先輩でもある女性の先生方は偉大なロールモデルで、何度励まされたかわかりません。
    娘は今年から小学生になり、毎日楽しく学校に通っています。振り返ると、娘は様々な場に出てたくさんの人たちと関わることで、本当に多くのことを経験し、学び、ちなみに小学校受験もしましたので、私と一緒に強くたくましくなりました。
  2. 後輩の皆さんへ
    私は子育てを通して、知っていたはずの世界や研究に対して、これまで予想だにしなかった観点や感覚を得ることができました。さらに、自分という人間を改めて知ることにもなり、なかなか面白い経験をさせてもらっています。何よりも、子どもはめちゃくちゃかわいいですし、子どもの成長はとにかく面白く、感動し、エピソードに事欠きません。こう思えるのも、所属講座をはじめとする教職員の方々の暖かいご支援や、保育室をはじめとする具体的な子育て支援策の存在、そして、実際に多くの方が子育てに関わってくださっているからです。
    娘には自分が働く姿を見て欲しい、これがあなたの母親で、我が家はそういうルールで回っている、あなたはあなたの世界を親と対等にしっかり築くのだ、ということを伝えたいと思ってきました。それがうまくいっているかはわかりませんが、子どもは何歳であっても、親との関係が安定していれば、自ら外に世界を広げていけるということ、そして、その絶大な価値を娘の姿から改めて学んでいます。子どもを早くから預けることに「かわいそう」という眼差しを向けられるとしたら、何がかわいそうなのか甚だ疑問です。世間の神話など気にせず、必要な時には堂々と支援策を活用して、子育てと仕事をしっかり両立させることに尽力することが、翻って、子どもときちんと向き合うことになるし、長い目で見て良い仕事に繋がるのではと思います。
    これからますます、子育てと仕事を両立される方が増えますように、そして支援策がより一層充実するよう、私もできることをしていきたいと思っています。