L-アラビノースを合成する酵素の性質と重要性に関する研究  


植物糖鎖生物学研究室 梅澤 輝

 

L-アラビノースとは?

 糖と聞くと甘くて美味しいけれど摂りすぎると太ったり血糖値が上がってしまったりするというイメージを持っている人も多いのではないでしょうか。しかし、糖には様々な種類があり、その中には甘いけれど太らない糖も存在します。その中の1つがL-アラビノースです。L-アラビノースは砂糖の約半分の甘さといわれており、小腸でブドウ糖の吸収を抑えるためダイエット食品や糖尿病対策として特定保健用食品 (トクホ) として利用されています。この面白い糖は動物では作られない植物に特有な糖です。では、この糖は植物でどのように作られているのでしょうか。

 

L-アラビノースの合成 

 グルコース (ブドウ糖) は植物で一番多い糖ですが、グルコースから別の糖も合成しています。まずUDP-グルコースという物質を合成し、これを元に別の糖を合成しています。いくつもの段階を経てさらに別の糖も合成されます。L-アラビノース(下図、) グルコース (下図、) からの変換の最後の段階で合成されます。この合成はタンパク質の一種である酵素が行っています。



L-アラビノースを合成する酵素の不思議

 通常、酵素は決まった相手 (基質) にのみ作用します。糖の合成に関わる酵素も例外ではありません。2009年に私の所属する研究室は元々別の糖を合成することが知られていた酵素が、L-アラビノースも合成することを見つけました。面白いことに元々の働きは同じにもかかわらず、加えてL-アラビノースを合成できる酵素 (下図、) できない酵素 (下図、) があります。両者は全体的な立体構造はほぼ同じなので、1 ,2箇所のわずかな違いで働きが変わっていると考えられます。そこで私はこれらの酵素の働きの違いの原因がどこにあるかを調べています。

 


 

・実験内容

 @形は似ているが働きが異なる2つの酵素の構造 (アミノ酸) を比べ、わずかなアミノ酸の違いを一つずつ交換し働きが変わるかを調べています。




A遺伝子を欠損してL-アラビノースの合成能力が著しく低下した植物を育てています。その植物でどの部位でL-アラビノースが減るのか、通常の植物とどのように成長や形態が変わるかを調べ、酵素の重要性を明らかにしています。
 


 

 

・今後の展望

  このようなL-ア ラビノースを合成する酵素が存在するかしないかは植物間でも異なります。本研究ではこの違いの原因はアミノ酸の違いだと仮定しています。アミノ酸の変化は 進化の過程で起こります。つまり、この酵素の違いの原因や重要性を明らかにすることで植物の進化の一部が分かるかもしれません。