高等植物の多糖類、糖脂質などは、糖ヌクレオチドを基質として糖転移酵素の作用で合成されます。糖ヌクレオチドの合成経路にはde novo経
路とsalvage経路の2種類があり、前者では、UDP-Glcを初発基質とした変換反応により様々なUDP-糖が合成されるのに対して、後者では多糖
類の分解などで生じた単糖が単糖1-リン酸を経て糖ヌクレオチドに変換されます (図 1)。これまで、特にsalvage経路の最終反応 (糖1-リン酸の糖ヌクレオチドへの変換)
を触媒する酵素が見つかっていませんでした。
最近、私たちはエンドウ芽生え (トウミョウ)
中に新規のUDP-糖ピロフォスフォリラーゼ、PsUSPを見いだし、生化学的に精製するとともに、遺伝子を単離することに成功しました。PsUSPは糖
1-リン酸に幅広い基質特異性を持った酵素で、UTPの存在下で、UDP-Glc, UDP-Gal, UDP-GlcA, UDP-Xyl, UDP-L-Ara
を生成します。大腸菌で作成した組換えPsUSPタンパク質も同様の活性を持っていました (図 2)。また、遺伝子の系統樹解析ではPsUSPが、シロイヌナズナやイネの相同遺伝子とともに、既存の
UDP-GlcピロフォスフォリラーゼやUDP-GlcNAcピロフォスフォリラーゼとは別のグループを形成していることがわかりました (図 3)。これらの結果からPsUSPは植物の体内で
salvage経路の最終反応を触媒する、幅広い基質特性を有した新種のUDP-糖ピロフォスフォリラーゼであることがわかりました。現在は、単糖を糖1
-リン酸に変換する、単糖キナーゼについても研究を進めています。
参考文献
Kotake et al. (2008) J. Biol. Chem.
283:
8125-8135 ( abstract)
Kotake et al. (2007) Biosci.
Biotechnol. Biochem. 71: 761-771 ( abstract)
Kotake et al. (2004) J.
Biol. Chem. 279: 45728-45736 ( abstract)
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アラビノガラクタン-プロテイン (AGP)
は高等植物の原形質膜や細胞壁に存在する、植物のプロテオグリカンです。AGPは細胞分裂、細胞生長、細胞接着、細胞死などに関わることが明らかになって
いますが、その分子機能はわかっていません。AGPはガラクトースとアラビノースに富んだ糖鎖とヒドロキシプロリンに富んだコアタンパク質から構成され、
糖鎖は重量の90%以上を占めています。AGP糖鎖の構造はその由来により異なりますが、共通してβ-3,6-ガラクタン骨格を持っていて、さらに1,6
-ガラクタンに、アラビノース、グルクロン酸、4-メチルグルクロン酸、フコースなどが結合しています。植物の体内には、コアタンパク質が異なる多数の
AGP分子種が存在しているため、変異体やアンチセンス導入個体を用いた機能解析はとても困難です。またヘテロで複雑な糖鎖が結合していることもAGPの
機能解析を難しくしています。
私たちは、AGP糖鎖が共通してβ-3,6-ガラクタン骨格を持っていることに着目して、AGP糖鎖の分解酵素の単離と性状解析を進めています。特異的
な分解酵素はAGPの糖鎖の構造を決定する上で非常に有効なツールとなるだけでなく、分解酵素遺伝子を植物に導入することでAGP糖鎖の機能を明らかにす
る可能性も秘めています。私たちはこれまでに、エキソ-β-1,3-ガラクタナーゼ (EC
3.2.1.145)、エンド-β-1,6-ガラクタナーゼ(EC 3.2.1.164)、β-ガラクトシダーゼ (EC 3.2.1.23)、α-L-
アラビノフラノシダーゼ (EC 3.2.1.55)、β-グルクロニダーゼ(EC 3.2.1.31)を単離しました (図 1)。
参考文献
Konishi et al. (2008) Carbohydr.
Res. 343:
1191-1201 ( abstract)
Ichinose et al. (2008) Appl.
Environ. Microbiol. 74: 2379-2383
( abstract)
Kotake et al. (2006) J.
Exp. Bot. 57:
2353-2362 ( abstract)
Kotake et
al. (2005) Plant Physiol. 138: 1563-1576 ( abstract)
Ichinose et al. (2005) J.
Biol. Chem. 280:
25820-25829 ( abstract)
Kotake et
al. (2004) Biochem. J. 377:
749-755 ( abstract)
Okemoto et
al. (2003) Carbohydr. Res. 338: 219-230 ( abstract)
Kuroyama et
al. (2001) Carbohydr. Res. 333: 27-39 ( abstract)
Tsumuraya et al. (1990) J. Biol. Chem.
265: 7207-7215 ( abstract)
Hata et
al. (1992) Plant Physiol. 100:
388-396
Sekimata et
al. (1989) Plant Physiol. 90: 567-574
学会ポスター
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