埼大生に読んでほしい教養図書

埼大生に読んでほしい教養図書として、埼玉大学の専任教員の先生方が推薦する図書たちです。

埼大生に読んでほしい教養図書について

令和4年4月
理事(教学・学生担当)・副学長
柳澤 哲哉

 試験対策の参考書には、要領の良い知識の詰め込み方や、効率の良い解法のテクニックが求められます。ここで紹介されている教養図書は、そうした類の参考書ではありません。本学の教員が、所属学部や専門分野の違いを越えて、埼大生に是非とも読んでもらいたいという思いから精選した本です。つまり、特定の専門分野に関する本であっても、その専門分野に特化した知識の伝授ではなく、より普遍的な世界への入り口となる本、あるいはみなさんに容易に解決できない問いを投げかけてくれる本が選ばれています。

 日本の大学は、専門的な知識の伝授だけではなく、幅広く深い教養と総合的な判断力を培い、豊かな人間性を涵養することが求められております。幅広く深い教養を身に付けるといっても、たとえ基礎的な知識でも全ての領域を一人の人間が頭に入れることなど不可能です。知識ももちろん大事ですが、幅広く深い教養を身に付けることと知識の暗記とは別物です。知識を得ることを通じて、知的謙虚さを身に付けることが、幅広く深い教養の一つの重要な役割です。知識を広げることで自分の知識の限界を知ること。そして自分を相対化し、反対意見に心を開けること。このような知的謙虚さは、自他ともに尊重する姿勢にもつながってくるはずです。

 紹介されている本の中から、幅広い教養への手がかりを見つけて下さい。図書館2階の「教養図書」コーナーに配架されてますので、図書館に足を運んでページをめくってください。

更新情報・お知らせ

2022/4/27
「埼大生に読んでほしい教養図書について」を更新しました。
2020/3/30
埼大生に読んでほしい教養図書を公表しました。
  • 書名は埼玉大学図書館OPACの蔵書情報にリンクしています。
  • 図書の表紙イメージは紀伊國屋書店ウェブストアへリンクしております。
  • 推薦者氏名は埼玉大学研究者総覧にリンクしています。
  • 各分類から厳選した2冊を掲載したリーフレットはこちらをご覧ください。
人文学 哲学・芸術学
地理・歴史
言語・文学
社会科学 政治学・法学
経済・経営
社会学
教育学・心理学
科学技術 自然科学
技術・工学
外国語
初修外国語
数理・情報 情報科学技術
数理・データサイエンス
グローバル・シチズンシップ 異文化理解・多価値共存
国際協力
健康科学
スポーツ

人文学:哲学・芸術学

1. 推薦者:加藤有希子 所属・職名:基盤教育研究センター・准教授

「生きる意味」を求めて / V・E・フランクル著 ; 上嶋洋一, 松岡世利子訳. - 春秋社, 1999

 「生きる意味なんてない」とつっぱねて生きていけるほど私たちは強くはありません。物質的には比較的不自由なく生きられるようになった日本社会に生きる私たちだからこそ(経済的に苦しいと言っても、飢餓で人が死ぬことはほとんどなくなりました)、第二次大戦中に強制収容所を経験したユダヤ人である著者の極限状態から、単に物質では解決できない、生きる意味を学び取ることができるでしょう。著者は「人生の意味について悩むことは、その人が人間であるということを証明する」と言っています。


2. 推薦者:髙橋克也 所属・職名:人文社会科学研究科・教授

寛容論 / ヴォルテール著 ; 中川信訳. - 中央公論新社, 2011. -- (中公文庫)

 18世紀フランスの哲学者ヴォルテールが、宗派同士で争いあうキリスト教徒の「不寛容」ぶりを辛辣に批判しています。あえて異教徒や異文化の立派な面を強調しつつ、自分たちの社会の醜い部分を浮き彫りにしようとするその戦術と情熱が印象的。自分を外から見るということは難しいことですが、大人としてこの社会、世界に生きていくためには必要な姿勢ではないでしょうか。多様性の受け入れに苦労する現代の私たちにも活を入れてくれる本です。


3. 推薦者:髙橋克也 所属・職名:人文社会科学研究科・教授

現代人のための哲学 / 渡邊二郎著. - 筑摩書房, 2005. -- (ちくま学芸文庫)

 ドイツ哲学研究の大家が晩年に著した一般向けの教科書。先行きの不透明な現代において、人々がニヒリズムと自暴自棄に流される危険がいかに大きいかを警告。過去現在の哲学者たちを分かりやすく解説あるいは批判しながら、生命への愛をかみしめることと、価値ある人生の追求をあきらめないことを説いています。少し硬い文体ですが、著者の語彙の豊富さときっぱりした物言いは、言葉の使い方の面でも読者に刺激とヒントを与えてくれるでしょう。


4. 推薦者:加藤有希子 所属・職名:基盤教育研究センター・准教授

イメージ : 視覚とメディア / ジョン・バージャー著 ; 伊藤俊治訳. - 筑摩書房, 2013. -- (ちくま学芸文庫)

 私たちはふだん何気なく外界を「見て」いますが、その「見る」ということの意味を改めて問い直す良著です。芸術や広告などの基礎になる「見る」ということには、民族や性別の力関係や、経済的・政治的利益の追求などの思惑が凝縮しています。たとえばなぜ女性は化粧をするのでしょうか。ふだん無意識にとっている「見る」「見られる」の姿勢を分析、理解することで、女性を含め、さまざまな立場の人が束縛から自由になれます。


5. 推薦者:髙橋克也 所属・職名:人文社会科学研究科・教授

クリティカルシンキング : あなたの思考をガイドする40の原則 / E.B. ゼックミスタ, J.E. ジョンソン著 ; 宮元博章, 道田泰司, 谷口高士, 菊池聡訳 ; 入門篇. - 北大路書房, 1996

 風説、オカルト、フェイクニュースなどがネットを通して簡単に広まるようになった現在、私たちには出来事や問題を慎重かつ公平に検討する力がますます求められています。論理学と心理学にもとづいた「批判的思考(クリティカルシンキング)」の諸原則を教える本書は、そのような力を磨く一つの手引きとなってくれるでしょう。身近な例と簡単な練習問題を通して楽しく学べるようになっています。


6. 推薦者:加藤有希子 所属・職名:基盤教育研究センター・准教授

美学辞典 / 佐々木健一著. - 東京大学出版会, 1995

 「美とは何か」「創造性とは何か」「作品とは何か」という美学の根本的な問に、正面突破で答えていく名著です。美学に関する25の項目に短く答えるもので、いわゆる引くための大きな辞書ではなく、読むための辞典です。美学を学ぶ人は誰もが読むべき項目であり、その簡潔な説明に納得できると思います。また専門的に学びたい人には、註から原典に遡ることができます。著者の佐々木健一氏は埼玉大学の助教授から東京大学教授、美学会会長などを歴任されました。

人文学:地理・歴史

7. 推薦者:一ノ瀬俊也 所属・職名:人文社会科学研究科・教授

新もういちど読む山川日本史 / 五味文彦, 鳥海靖編. - 山川出版社, 2017

 歴史には過去から現在に連なる流れ、ストーリーというものがあります。それを簡潔に理解していれば、各時代の深い理解も容易かつ正確なものになります。歴史の流れを理解するのに一番よいテキストは、実は高校の教科書です。この本はその高校教科書を社会人向けに物語り仕立てにしたものですから、大学生も普通に楽しく読めると思います。


8. 推薦者:小林聡 所属・職名:教育学部・教授

グローバル化と世界史 / 羽田正著. - 東京大学出版会, 2018. -- (シリーズ・グローバルヒストリー ; 1)

 “グローバル化”という言葉はよく聞くけれど、歴史学というのは過去を研究するのだから、今のトレンドでどうこうなるものではない、と思う人もいるかも知れません。しかし、私たちが学んでいる歴史というものは、“ある特定の国家や時代”という状況設定の中で生まれた歴史にすぎないのではないでしょうか。とすると、グローバル化が進むとされるこの世界で、私たちは歴史学の学びの転換点に立っているのかも知れません。そんなことを考えさせてくれる一冊です。


9. 推薦者:中村大介 所属・職名:人文社会科学研究科・准教授

縄文の実像を求めて / 今村啓爾著. - 吉川弘文館, 1999. -- (歴史文化ライブラリー)

 しばしばユートピアのように表現される縄文文化ですが、一万年以上の長い歴史があり、数千年ごとに大きく異なる社会が形成されています。本書は純粋に考古学的な事実から、縄文時代の豊かさの本質と限界について論じており、考古学研究の手本のような内容となっています。文字のない世界の研究を始める際に最初に手にとってほしい本です。


10. 推薦者:三浦敦 所属・職名:人文社会科学研究科・教授

21世紀の文化人類学 : 世界の新しい捉え方 / 前川啓治ほか著. - 新曜社, 2018. -- (ワードマップ)

 文化人類学は、世界の様々な地域に住む人々の文化や社会について研究する学問ですが、その扱う領域は、宗教や信仰から社会構造、政治過程、さらには芸能や福祉まで、非常に幅が広く、また対象とする地域も世界各地なので、その範囲の広さから、今までなかなかいい日本語の教科書は作られてきませんでした。それでもここ10年、ようやく少しずついい教科書が作られるようになってきました。本書は、そうした教科書のうち、最近の諸成果を取り入れてやや高度な理論的内容を論じた教科書で、入門を終えた学生がより深く学ぶのに適しています。


11. 推薦者:谷謙二 所属・職名:教育学部・教授

人文地理学への招待 / 竹中克行編著. - ミネルヴァ書房, 2015

 地理学は地表で生起するさまざまな事象を対象とする学問で、自然現象を扱う自然地理学と、人文現象を扱う人文地理学に大きく分かれます。本書は人文地理学に関するもので、都市、農村、景観、工業、流通、GIS、観光、歴史地理、環境問題など幅広い領域を扱っています。扱う事象はさまざまですが、地理学では空間の広がりの中の関係性からそれぞれの事象にアプローチしていきます。本書では具体例をあげてわかりやすく解説しています。


12. 推薦者:市橋秀夫 所属・職名:人文社会科学研究科・教授

なぜ歴史を学ぶのか / リン・ハント著 ; 長谷川貴彦訳. - 岩波書店, 2019

 そのときはうまく理解できなくとも、難解さにチャレンジするのが大学生の大学生たるゆえんでもある。本書は、近年の欧米におけるさまざまな歴史論争や歴史学の新しいアプローチについて、また歴史学が直面する困難と可能性について手短に、しかし手堅く論じた入門的専門書である。本書を入り口に、歴史学研究の森に分け入って行ってほしい。

人文学:言語・文学

13. 推薦者:池上尚 所属・職名:教育学部・准教授

ものの言いかた西東 / 小林隆, 澤村美幸著. - 岩波書店, 2014. -- (岩波新書)

 無口かおしゃべりか、挨拶や喧嘩で決まった言い方をするかどうか……個性と思われがちな「ものの言い方」にも実は地域差が絡んでいます。本書は「ものの言い方」に関する志向や好み(言語的発想法)を7つに分類し、その地理的傾向を分析するだけでなく、そうした差異を生み出した社会環境の在り方にも目配りしています。地域に固有の文化について考えるうえで、有効な視点を提示してくれる一冊です。


14. 推薦者:金井勇人 所属・職名:人文社会科学研究科、日本語教育センター・教授

言語学のしくみ / 町田健編著. - 研究社, 2001. -- (シリーズ・日本語のしくみを探る ; 3)

 言葉そのものを探究する言語学は、さまざまな「言葉の捉え方の基本軸」を提示しつつ、言葉の多様な側面(音声・形態・意味など)に光を当ててきました。本書は、言語学の歴史や言語学の各ジャンルを過不足なく見わたすための手引きとなる一冊です。具体例を主に日本語から引くことで、言語学を身近に感じやすくしてくれているのも特徴です。豊富な実例に触れながら、自分が普段使っている言葉に対する意識を高めてほしいと思います。


15. 推薦者:七田麻美子 所属・職名:基盤教育研究センター・准教授

兼好法師 : 徒然草に記されなかった真実 / 小川剛生著 - 中央公論新社, 2017. -- (中公新書)

 教科書でもおなじみの『徒然草』の著者については、「名声や富には執着しない、自由な心を持つ世捨て人」というイメージが流通してきました。それに対して、本書は彼が生きた時代の資料を丹念に分析することで、「己の才能と豊かな人脈を活用して、俗世をしたたかに生きた男」という新しい兼好像を、当時の社会の姿と合わせて鮮やかに浮かび上がらせます。ちなみにこの人物を「吉田兼好」とは呼べない理由も、本書を読めばよく分かります。


16. 推薦者:七田麻美子 所属・職名:基盤教育研究センター・准教授

物語は人生を救うのか / 千野帽子著. - 筑摩書房, 2019. -- (ちくまプリマー新書)

 たとえば生きている意味を考えるとき、人は(時に格言の、時に文学の姿をとって現れる)既存のストーリー形式に頼りながら、自分なりのライフストーリーを作りがちです。それは安定をもたらす一方で、「分かったつもり」や「型にとらわれる苦しみ」の源にもなります。本書は「物語る存在としての人間」を、物語論、心理学、哲学などさまざまな視点から照らし出し、毒にも薬にもなる「ストーリー」と少し距離を取りながら付き合っていく方法を教えてくれます。


17. 推薦者:松原良輔 所属・職名:人文社会科学研究科・教授

批評理論入門 : 『フランケンシュタイン』解剖講義 / 廣野由美子著. - 中央公論新社, 2005.3. -- (中公新書)

 ストーリーを追ったり、登場人物に感情移入したり、小説の楽しみ方は人さまざまです。しかしさらに一歩踏みこむと、もっと面白くなります。映画でも有名なイギリスの小説『フランケンシュタイン』を題材にした本書は、小説の多様な読み方へと導いてくれるコンパクトなガイドブックです。作品を組み立てるテクニックや、先人が切り開いた読みの方法を知ることで、今まで知らなかった視点から小説を読める ― その実践例をぜひ体験してみてください。

社会科学:政治学・法学

18. 推薦者:土川信男 所属・職名:人文社会科学研究科・准教授

政治 : 個人と統合 / 有賀弘, 阿部斉, 斎藤眞著. -- 第2版. - 東京大学出版会, 1994. -- (UP選書)

 平易な語り口ながら「政治」という営みを、「個人と統合」という視点から原理的に考察しています。まず、政治社会の成り立ちを「自治」と「統治」との両面から把握し、自然法・社会契約等に触れながら政治社会の制度化を説明します。次に、議会制を中心として近代の政治社会について検討し、さらに、現代における行政国家化・福祉国家化を考察します。最後に、社会の組織化と国際化とによって生じた新たな課題について論じています。


19. 推薦者:土川信男 所属・職名:人文社会科学研究科・准教授

政治学講義 / 佐々木毅著. -- 第2版. - 東京大学出版会, 2012

 初学者にはややむずかしいかもしれませんが、折々に読み返してもらいたい1冊です。著者は、まず「概念」が現実を読み解く上でもつ意義を指摘した上で、政治をめぐる基礎概念について説明します。次に、現代民主政治の条件・制度・主体等について述べ、さらに、政治経済体制をめぐる最近の政治潮流について論じます。教科書的な体裁の背後に、多元的主体がいかにして公共の利益を生みだし得るのかという強烈な問題意識が感じられます。


20. 推薦者:草野大希 所属・職名:人文社会科学研究科・准教授

国際政治 : 権力と平和 / モーゲンソー [著] ; 原彬久監訳 ; 上, 中, 下. - 岩波書店, 2013. -- (岩波文庫)

 国際政治の本質を「国家間の権力闘争」と見なし、「力として定義された国益」概念による国際政治分析の必要性を説いた国際政治学の古典的名著。著者はドイツ生まれのユダヤ人で、当初は法学者でしたが、1930年代のナチスによる迫害を逃れ米国に渡った後の1948年、体系的な国際政治学の本書を出版。戦争や平和の条件を探る本書には、力に加え、国際法の可能性と限界についての深い洞察も含まれており、国際政治のみならず国際法を学ぶ上でも有益です。


21. 推薦者:江口幸治 所属・職名:人文社会科学研究科・准教授

現代法学入門 / 伊藤正己, 加藤一郎編. -- 第4版. - 有斐閣, 2005. -- (有斐閣双書)

 本書は、法学が抽象的な原理を持つ無味乾燥な学問と理解されることのないように、法を社会統制の1つとして、生きた社会の関連の中で捉えようと努力しています。編者も述べるように、そのために、①法を具体的な問題に即して重点的把握ができるように、②法学を他の社会科学と関連させて理解できるように、そして③執筆者の個性的な考え方をある程度までに出して、読者の考える材料を提供するように努めており、法学を学びたいという気持ちを起こさせる入門書だと思います。


22. 推薦者:江口幸治 所属・職名:人文社会科学研究科・准教授

法学入門 / 三ヶ月章著. - 弘文堂, 1982. -- (法律学講座双書)

 民事訴訟法担当の著者が東大で行った最終講義の法学入門10講をまとめたものです。概論のように法の仕組み全体を説明するものではなく、法をしっかり学ぼうとする学生に法とは何かを、法則との違い、法の目的、法の理念について、とても平易な文章で説明しています。本書の特徴的なところは、外国法や海外の法学教育、法曹制度、及び経済学や政治学など、法学と隣接する学問との関係性やそれらを学ぶ必要性を詳しく述べている点です。

社会科学:経済・経営

23. 推薦者:柳澤哲哉 所属・職名:人文社会科学研究科・教授

君たちはどう生きるか / 吉野源三郎著. - 岩波書店, 1982. -- (岩波文庫)

 経済を中心に人間と社会の関係を発見していく少年の物語です。子供向けの平易な書き方ですが、客観性とは何か、歴史における個人とは何かなど、社会科学に共通する奥の深い普遍的な問題を扱っています。1937年に刊行された古い本ですが、最近またブームになりました。いくつかの版がありますが、岩波文庫版に収録されている丸山真男による著者追悼文もあわせて読むことをおすすめします。


24. 推薦者:柳澤哲哉 所属・職名:人文社会科学研究科・教授

マンキュー経済学 / N・グレゴリー・マンキュー著 ; 足立英之ほか訳 ; 2:マクロ編. -- 第4版. - 東洋経済新報社, 2019

 Principles of Economicsという世界で一番売れている経済学の教科書です。翻訳は『マンキュー経済学 ミクロ編』,『同 マクロ編』と分冊で刊行されています。みなさんに読んでいただきたいのは「イントロダクション」で、いずれの分冊でも読めます。冒頭の「経済学の10大原理」で標準的な経済学の発想に触れることができます。「なぜ経済学者の意見は一致しないのか」も社会科学の教養として知っておくとよいでしょう。


25. 推薦者:金房広幸 所属・職名:人文社会科学研究科・准教授

はじめの一歩経営学 : 入門へのウォーミングアップ / 守屋貴司, 近藤宏一編著. -- 第2版. - ミネルヴァ書房, 2012

 経営学は企業や組織の実践と深く結びついていますが、単にその実践に「役立つ道具」と考えるのは早計です。企業は経済活動を通じて多様な商品を提供しますが、同時に社会や自然に負荷をかけていることも否定できません(環境問題、企業不祥事、タックス・ヘイブンetc.)。本書は、広い視野から考えさせてくれる一助になるでしょう。

社会科学:社会学

26. 推薦者:佐藤雅浩 所属・職名:人文社会科学研究科・准教授

はじめて学ぶ社会学 / 高木聖, 村田雅之, 大島武共著. -- 第2版. - 慶應義塾大学出版会, 2016

 遊び・うわさ・自殺・流行・学校・結婚など、人々にとって身近なテーマから社会学的思考の基礎を解説している、入門的な教科書です。導入部に続く各章では、集団・会社・産業社会・高齢社会・メディア・情報など、現代社会の把握に欠かせないテーマを、社会学的概念を用いて考察しています。易しい文体で書かれており、また漫画を題材にした説明や、キーワード解説などの項目も多いので、社会学を初めて学ぶ方に適した教科書です。


27. 推薦者:渡辺大輔 所属・職名:基盤教育研究センター・准教授

LGBTを読みとく : クィア・スタディーズ入門 / 森山至貴著. - 筑摩書房, 2017. -- (ちくま新書)

 近年認知度が高まってきた「LGBT」を切り口に、単なる用語の解説ではなく、「LGBT」をめぐる社会の問題を読みとくための一冊。社会学の中でも、ジェンダーおよびセクシュアリティという視点は重要です。ジェンダーおよびセクシュアリティをめぐる社会構造を解き明かし、そこに張り巡らされている「権力」を問い、多様性の中にいる私という「主体」と「社会」との関係について思考を広げてくれる「クィア・スタディーズ」の刺激を味わってください。


28. 推薦者:宗澤忠雄 所属・職名:教育学部・准教授

えほん障害者権利条約 / ふじいかつのり作 ; 里圭絵. - 汐文社, 2015

 21世紀初の国際的な人権条約である障害者権利条約は、少数民族、女性、子ども等の権利条約の発展であり、障害のあるなしに拘わらず、市民としての権利を行使する主体としての対等・平等性を実現しようとするものであることを分かりやすく描いています。障害のある人を単に保護の対象とするのではなく、幸福追求権を自ら行使する者同士の共生社会の実現を目指しているエッセンスが分かります。これを読んでもっと深めてみたいと考えた人は、長瀬修他『障害者の権利条約と日本』(生活書院、2010年)をお薦めします。

社会科学:教育学・心理学

29. 推薦者:田代美江子 所属・職名:教育学部・教授

教育入門 / 堀尾輝久著. - 岩波書店, 1989. -- (岩波新書)

 本書は、「権利としての教育」のあり方を追究する1冊です。教育の本質と学校の固有の任務に迫りながら、現代的な教育の課題をみる社会科学的視点を提供しています。「学校を問うことは、現代社会と現代文明を問うことでもある」と述べられているように、その視点は、教育のみならず現代社会の課題を見極めることにつながるものです。学ぶということは、「自分の世界が広がり豊かになり、人と人とのつながりが深められていく」ことなのです。


30. 推薦者:渡辺大輔 所属・職名:基盤教育研究センター・准教授

教育学をつかむ / 木村元, 小玉重夫, 船橋一男著. -- 改訂版. - 有斐閣, 2019. -- (Textbooks tsukamu)

 教育という人間の営みに含まれる二つの行為である、「教えるということ」と「学ぶということ」とは何か。それぞれの主体(教育者と学習者)は、いかに「主体」となりうるか。これらの行為が行われる学校とは何か。教育をめぐる理論と歴史を踏まえて、現代的な教育の課題を取り扱うことで、上記の問いの真髄に迫っていきます。本書の最終章「共生の教育」で最後に扱うのが「シティズンシップ」である意味を、ぜひつかんでください。「教育」そのものを考える入門書として最適です。


31. 推薦者:渡辺大輔 所属・職名:基盤教育研究センター・准教授

窓ぎわのトットちゃん / 黒柳徹子著. - 講談社, 2015. -- (講談社文庫)

 テレビでも活躍中の黒柳徹子(トットちゃん)さんが第二次世界大戦直前に通っていたトモエ学園という小学校での出来事を描いたノンフィクション作品です。この小学校にはさまざまな“差異”をもった子どもたちが通っています。そんな子どもたちが共に、対等に、平等に学ぶ姿、それを可能にする学校や教師のあり方といった、「教育の本質」がそこにはあります。さまざまな「子どもの生きづらさ」が可視化している現在(いま)だからこそ読み深めたい一冊です。


32. 推薦者:馬場久志 所属・職名:教育学部・教授

学校と子ども理解の心理学 / 清水由紀編著. - 金子書房, 2010

 本書は、本学教育学部の特別支援教育講座と教育心理カウンセリング講座(現心理・教育実践学講座心理学系)所属教員が総出で作った一冊です。前半は子どもの発達過程と障害について、また後半は学校内外での子どもと教師の関係に焦点を当てています。コラムでは事例が紹介されます。子どもに接する人ならたぶん抱くであろう問いがちりばめられており、それをたどりながら学校と子ども理解がいっそう進むようにという教員一同の願いが本書の基調です。


33. 推薦者:宇佐見香代 所属・職名:教育学部・教授

「まなざし」の教育学 / 中村麻由子著. - 溪水社, 2018

 本書は、教育実践においておとなが子どもに向けるまなざしの複雑な奥行きに迫ることを主題としています。子どもを共感的に見ることの大切さだけでなく、まなざしに含まれる文化的・政治的な意味も説き起こし、そこからの教育実践の再編成を提言しています。私たちが当然ように思っているおとなと子どもの関係性や教育文化を根本的に問い直すことで、多くの子どもたちの成長の可能性が広がっていくことを学ぶのに最適の書です。

科学技術:自然科学

34. 推薦者:長澤壯之 所属・職名:理工学研究科・教授

大学数学の基礎 / 酒井文雄著. - 共立出版, 2011. -- (数学のかんどころ ; 4)

 高校までの数学は計算が中心、大学の数学は論証が中心となる。そのギャップにつまずく学生も多い。「叱られないと勉強しない。」の否定は?「勉強したら叱られた。」?そんなばかな!論理としては何処が誤っているのか?本書は、数学の用語の説明・使い方の解説に始まり、論理や証明法が述べられている。後半は高校生でも分かる内容を論理の視点から掘り下げている。本書読後は、先の誤りを正せるようになるだろう。文系学生向け。


35. 推薦者:長澤壯之 所属・職名:理工学研究科・教授

大学数学の教則 : 数学ライセンス取得のためのノート / 矢崎成俊著. - 東京図書, 2014

 数学は「数」に関する「学」問であるが、具体的な数を文字を用いて表す(代数 = 数の代わり) 事で、単なる算術から論証を基にする学問へと進化を遂げた。そこでは、皆が共通の用語・記号を用い、意味を正確に共有することが重要である。本書は、定義とはどうあるべきかから始まり、論理・証明の解説があり、大学初年時までに学ぶ題材を用いて「問題を解く道具としての数学」ではなく「論理体系を積み上げた体系的な数学」を垣間見せてくれる。


36. 推薦者:理学部物理学科教員一同

物理学とは何だろうか / 朝永振一郎著 ; 上, 下. - 岩波書店, 1979. -- (岩波新書)

 物理学がどのように発展してきたかを、物理学の成立(つまり力学の成立)と熱力学の成立を通して、ノーベル物理学賞受賞者の朝永振一郎が一般の人向けに語った書。物理学が、あるいはもっと広く自然科学が、どのような学問であるかを感じることが出来る。また、物理学に限らないが、科学の発展はその時代背景とは無縁では居られないことも詳しく述べられているので、科学と社会の関わりについて考えるための切っ掛けともなる。


37. 推薦者:杉原儀昭 所属・職名:理工学研究科・准教授

身近な現象・物質から学ぶ化学のしくみ / 日本化学会化学教育協議会「グループ・化学の本21」編. - 化学同人, 2007.5. -- (化学 ; 入門編)

 身のまわりで見られる物質や現象から化学の基本的なしくみを学び、化学の見方や考え方を身につけるのに適した本である。高校の教科書にくらべて計算式や反応式の記述が少なく、覚えなければいけない内容も極力減らされており、化学未習の学生にとっても読みやすい化学入門書である。食塩が水に溶けるしくみや漬け物と浸透圧の関係、リチウムイオン電池の原理など、化学の基礎から応用的な事象に至るまで幅広く説明されている。


38. 推薦者:高橋康弘 所属・職名:人文社会科学研究科・教授

カラー図解アメリカ版大学生物学の教科書 / D・サダヴァ他著 ; 石崎泰樹, 斎藤成也監訳 ; 第1巻-第5巻. - 講談社, 2010-2014 (ブルーバックス)

 このシリーズは、米国の多くの大学で採用されている生物学の教科書から、いくつかの分野を抽出して翻訳したものであり、第1巻は「細胞生物学」、第2巻は「分子遺伝学」、第3巻は「分子生物学」、第4巻は「進化生物学」、第5巻は「生態学」という構成になっている。一般教養のテキストとして、文系の学生でも、図版を眺めるだけで生物学の重要事項をおおよそ理解することができる。また、バイオ関連の情報を整理・理解するための良い手引書になる。


39. 推薦者:畠山晋 所属・職名:理工学研究科・准教授

大学で学ぶ身近な生物学 / 吉村成弘著. - 羊土社, 2015

 生物についてのシンプルな疑問、例えば、食べものからエネルギーを得るしくみ、花粉症(アレルギー反応)が起こる理由、海の中で昆布のダシが出ないわけ、などをかみ砕きつつ、大学レベルの生物学のエッセンスも盛り込まれている。生物学の初心者が徐々に興味を増すよう、丁寧に構成が練られており、わかりやすい図や写真もふんだんに盛り込まれているので、視覚的にも理解が進む一冊である。


40. 推薦者:杉原儀昭 所属・職名:理工学研究科・准教授

図解でわかる!理工系のためのよい文章の書き方 : 論文・レポートを自力で書けるようになる方法 / 福地健太郎, 園山隆輔著. - 翔泳社, 2019

 レポートや論文、報告書などの実用文を書く際には、論理的な内容にすることや、著者の考えや主張などを誤解を与えずに読者に伝えることなどが求められる。本書には、これら実用文の書き方のポイントがトピックを分けて書かれている。論理的に思考するためのポイントになるものもあり、「学ぶ」を自修するための教材としても有用である。学生のときだけではなく、指導者になったときにも役立つ本である。文系・理系両方の学生向き。

科学技術:技術・工学

41. 推薦者:山口祥一 所属・職名:理工学研究科・教授

ホモ・デウス : テクノロジーとサピエンスの未来 / ユヴァル・ノア・ハラリ著 ; 柴田裕之訳 ; 上, 下. - 河出書房新社, 2018

 タイトルの「ホモ・デウス」とは現在の人間(ホモ・サピエンス)をアップグレードしたものとして導入されています。そう聞くと荒唐無稽な似非科学と思われるかもしれませんが、一定の説得力のある随筆です。豊富な挿話は楽しく、読みやすい(漫画のようなスピードで読める)本です。重要なキーワードとして「共同主観」という概念が提示されます。いま特に何か宗教や主義を心底信じている人にとっては、自分を考え直す良い機会となるかもしれません。


42. 推薦者:浅田茂裕 所属・職名:教育学部・教授

科学技術ガバナンス / 城山英明編. - 東信堂, 2007. -- (未来を拓く人文・社会科学 ; 1)

 遺伝子操作、核開発、AIなど、次々と生み出される科学技術。社会を変革するほどの影響力を秘めたそれら科学技術は、常に市民社会に効用とリスクをもたらしてきた。科学技術ガバナンスは、そうした問題に対処し、適切な評価、意思決定を行うための制度設計であり、科学技術問題に関する社会的な合意形成プロセスでもある。科学技術ガバナンス実現に向けた技術者・専門家、そして市民社会の役割とは何か、本書は具体の事例を通じて多くを示唆している。


43. 推薦者:大久保潤 所属・職名:情報メディア基盤センター・准教授

食える数学 / 神永正博著. - KADOKAWA, 2015. -- (角川ソフィア文庫)

 暗号や波の話をきっかけにしながら、私たちの日常に数学がどのように役に立っているのかを教えてくれる良書。社会において、色々な技術をどのように人間のために使っていくかを模索するとき、まず大切なのは基本となる数学的な考え方です。数式変形の技術の前に、まずは考え方を。そこから新しい技術やサービスが生まれます。文系こそ数学を、と薦める一節もあるなど、幅広い分野の学生に数理の見えづらい力強さを感じ取らせてくれるはずです。もちろん、技術・工学の裏側を知るという純粋な楽しみも味わえます。


44. 推薦者:大久保潤 所属・職名:情報メディア基盤センター・准教授

インフォメーション : 情報技術の人類史 / ジェイムズ・グリック著 ; 楡井浩一訳. - 新潮社, 2013

 情報について語るときに、たまには歴史の話も。太鼓の話から始まり、コンピュータ、さらには生命や物理における情報に至るまで、様々な視点から情報の歴史について書いてくれています。情報という概念を幅広く捉えることは、ますます発展する情報化社会において強みとなるはずです。こんなものも情報として捉えられるのか、という驚きを感じつつ、歴史を学び、これからの社会の動きについて思いを馳せる時間をもつのはいかがでしょうか。そのための良いガイドとして役立つ一冊。少し分厚い本ですが、挑戦の価値あり、です。


45. 推薦者:大久保潤 所属・職名:情報メディア基盤センター・准教授

情報理論 / 甘利俊一著. - 筑摩書房, 2011. -- (ちくま学芸文庫)

 数式が出てくるので人によっては読み進めるのがなかなか難しいかもしれません。でも、情報理論の本質を、これほどまでにわかりやすく直感的に記載してくれる本を私は他に知りません。そもそも情報という曖昧なものを数学的にどのように定義するのか、その定義がどのように直感と一致するのか、これらを自分で理解できた時の感動は大きいはず。文系の人が情報の数理の本質を知ろうとして挑戦するもよし、理系の人が教科書に取り組む前に直感的な理解を深めるのに利用するもよし。そんな素敵な体験を、文庫でどうぞ。


46. 推薦者:髙﨑正也 所属・職名:理工学研究科・教授

自動制御とは何か / 示村悦二郎著. - コロナ社, 1990

 制御工学の教科書と言えば数式だらけで理論が中心になっているイメージだが、この書籍はそれをさけ、広い層の一般の読者にも自動制御とはどんなものか理解してもらうことを意識している。制御工学の発展の歴史と周辺技術との関連が中心的に述べられており、数式は見当たらない。そのため、教養として制御工学とはどんなものかを理解することに適している。


47. 推薦者:鈴木美穂 所属・職名:理工学研究科・准教授

生き物から学ぶまちづくり : バイオミメティクスによる都市の生活習慣病対策 / 谷口守著. - コロナ社, 2018

 生物と都市を構造物として、例えば血管は道路、臓器は街など、比較し捉えることはイメージがし易いかもしれない。が、本書は生体内で起こる様々な現象の機能的な側面に着目し、その機能が損なわれた場合の病態、そのような状態から個体を維持させ続け、世代を超えて種を保存するために生物が取る回復システムあるいはそうならないための防御システムなどを、都市の機能不全や再生とわかりやすくリンクさせているとろに引き込まれ、広く科学技術や工学を学ぶことの大切さを自然と感じさせてくれると思う。


48. 推薦者:藤野毅 所属・職名:理工学研究科・教授

日本人にとって自然とはなにか / 宇根豊著. - 筑摩書房, 2019. -- (ちくまプリマー新書)

 著者は公務員勤務時代に田んぼの減農薬化に尽力し、退職後「百姓」として無農薬田んぼの豊かな生物相にスポットを当て、自然や生命に対する日本人の感性について、現代科学による捉え方とのずれや科学では説明し難い部分をあぶり出している。「技術」の習得を目指す工学部の学生にとって日常が非生物的なもしか触れなくなる中、「日本人の理性」について著者の見方に触れることで、万物の感受性が豊かになることを期待します。

外国語:初修外国語

49. 推薦者:松原良輔 所属・職名:人文社会科学研究科・教授

外国語を学ぶための言語学の考え方 / 黒田龍之助著. - 中央公論新社, 2016. -- (中公新書)

 初めて外国語を学ぶときには、「文法=調理法」と「語彙=食材」を組み合わせて勉強することが多いでしょう。でもそこに「言語学の視点」を隠し味として入れると、余分な不安(たとえば発音の「正しさ」への過剰なこだわり)が軽くなったり、「話が通じる」とはどんなことだろうかと改めて考える機会が得られたり、言葉と時間とのかかわりが言語ごとに違うことに気づけたり…というふうに、学びが「よりおいしく」なりますよ、ということを縦横無尽に語る一冊です。


50. 推薦者:牧陽一 所属・職名:人文社会科学研究科・教授

「国語」から旅立って / 温又柔著. - 新曜社, 2019. -- (よりみちパン!セ)

 台北に生まれて3歳の時に日本に移住、台湾語、中国語、日本語の飛び交う家庭で育ち、今は日本語で創作活動を行っている作家、温又柔 ― 日常生活のなかで、言葉から来る悔しさとうれしさを味わい、時に自分の立ち位置について悩みながらも考え、成長していく姿を、優しく、生き生きとした言葉でとらえた自叙伝です。「母語であれ外国語であれ、言葉を学ぶことにはどんな意味があるのか」を考えるためのヒントがたくさん詰まった一冊です。

数理・情報:情報科学技術

51. 推薦者:高松亮 所属・職名:人文社会科学研究科・准教授

AI原論 : 神の支配と人間の自由 / 西垣通著. - 講談社, 2018. -- (講談社選書メチエ)

 AIは何ができて何ができないのか。過去から現在までを俯瞰し、その背景を技術的なものにとどまらず思想的なものも含めて網羅している。AIブームの中でメディアがAIの社会的インパクトを誇大に見積もる現在、冷静な議論に必要な学際的視点を与える著書。著者との対談がhttps://gendai.ismedia.jp/articles/-/56489 ("「AIは人間を超える」なんて、本気で信じているんですか?")(2019年12月18日アクセス) にて読め、理解の参考になる。


52. 推薦者:長澤壯之 所属・職名:理工学研究科・教授

インターネットコミュニケーション : デジタルライフのおとし穴 / 和田悟, 近藤佐保子共著. - 培風館, 1999. -- (文科系のための情報学シリーズ)

 インターネットは私たちの生活には欠かせないものになっている。一方、使い方を誤ると情報を流出してしまうといった危険性を有している。また、悪意を持つ第三者からのウィルスによる攻撃や、情報改ざんなどを受ける可能性もある。本書は、インターネットが大衆化された初期の頃に、コミュニケーションツールとしてのインターネットや情報倫理について論じたものである。長く廃刊にならないのは技術の進展とは独立で普遍的な内容だからである。


53. 推薦者:後藤祐一 所属・職名:理工学研究科・准教授

トータル・リコール / フィリップ・K・ディック著 ; 大森望編. - 早川書房, 2012. -- (ハヤカワ文庫. ディック短篇傑作選)

 収録されている「マイノリティ・リポート」はトム・クルーズ主演の映画の原作。犯罪行為をする前にその行為を行うと予言された人を逮捕する未来を描いたSF。深層学習・機械学習の利用が進んでいる現在において、その有用性や危険性を考えるネタとなると思う。短編なので大変短くさくっと読めるのも良い。


54. 推薦者:後藤祐一 所属・職名:理工学研究科・准教授

ユニコード戦記 : 文字符号の国際標準化バトル / 小林龍生著. - 東京電機大学出版局, 2011

 コンピュータ上のデータはすべて0か1の文字列で表されている。このため、コンピュータ上で文字を扱おうとするとき、どの0と1の文字列がどの文字に対応するのかをあらかじめ決めておかないといけない。これを文字符号という。そして、その文字符号を世界中のさまざまなコンピュータ上で使おうとするならば国際標準化する必要がある。本書は世界的に使われているユニコードという文字符号の制定に関わった日本人の奮闘記である。標準化の難しさと重要性を学ぶことができる。


55. 推薦者:後藤祐一 所属・職名:理工学研究科・准教授

カッコウはコンピュータに卵を産む / クリフォード・ストール著 ; 池央耿訳 ; 上巻, 下巻. - 草思社, 2017. -- (草思社文庫)

 1980年代後半のコンピュータネットワーク上に起こった事件を当事者のクリフォード・ストール氏が書いた本。ドキドキする推理モノを読むように当時の、そして今に通ずる情報セキュリティについて学ぶことができる。登場する機器や技術が30年以上前のものなのでそこはちょっと読みにくいかも。

数理・情報:数理・データサイエンス

56. 推薦者:高松亮 所属・職名:人文社会科学研究科・准教授

Artificial Intelligence ? The Revolution Hasn’t Happened Yet / by Michael I. Jordan. - MIT Press, 2019. -- (Harvard Data Science Review ; Issue 1.1)

 著者は機械学習や統計学が専門のカリフォルニア大学バークレー校教授。現在AIないし人工知能と呼ばれているものは、データに基く識別・予測を行なうアルゴリズムであり、「知能」という語の持つ印象とは異なる技術であることと、AIの技術を社会に適用する際に留意すべき論点について平易に書かれている。日本語訳を掲載したウェブページ("AI - その革命はまだ起きていない、そして起きそうもない" ( https://qiita.com/KanNishida/items/dfab2a09ff1e07139492 )) もある。


57. 推薦者:野村泰朗 所属・職名:教育学部・准教授

Factfulness (ファクトフルネス) : 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣 / ハンス・ロスリング, オーラ・ロスリング, アンナ・ロスリング・ロンランド著 ; 上杉周作, 関美和訳. - 日経BP社, 2019

 情報の信憑性をいかに確かめるかという問題は、情報社会の進展に伴いますます難しくなってきている。あらためて、我々の認識のあり方について見つめ直す必要があるとともに、今日における情報の信憑性を確かめる共通言語である科学の考え方の重要性を知る必要がある。本書は,情報の渦に巻き込まれることなく情報の信憑性を捉える上でデータの重要性と、しかしそのデータの収集の難しさについて多くの示唆を与えてくれる。


58. 推薦者:野村泰朗 所属・職名:教育学部・准教授

世界でもっとも強力な9のアルゴリズム / ジョン・マコーミック著 ; 長尾高弘訳. - 日経BP社, 2012

 世界でComputational Thinkingの教育の重要性を言う声が高まっている。日本ではプログラミング的思考と呼ばれ小学校からの指導が始まるが、プログラミング的思考の本質が何か、捉えづらいものであり、また伝えづらいものでもある。プログラミング的思考とは、対象のモデル化と自動化にあると考えられるが、本書はその中核となるアルゴリズムについて現在の情報社会で使われている事例を用いて丁寧に解説されており理解を助けてくれる。


59. 推薦者:後藤祐一 所属・職名:理工学研究科・准教授

マネー・ボール / マイケル・ルイス著 ; 中山宥訳. -- 完全版. - 早川書房, 2013. -- (ハヤカワ文庫)

 スポーツ漫画やドラマならば、必ず主人公チームに打ち破られるであろう「データ主義」でチームを強くしたノンフィクション。データの利用はどのように行うのかをアメリカの大リーグの仕組みに詳しくなりながら学ぶことができる。ブラッド・ピット主演の映画版もある。


60. 推薦者:久保田尚 所属・職名:理工学研究科・教授

四千万歩の男 / 井上ひさし著 ; 1 - 5. - 講談社, 1992. -- (講談社文庫)

 千葉県佐倉の商人伊能忠敬は、若い頃から数学や天文学が大好きで、50歳で隠居して本格的勉強を始めた。その中で、地球の大きさを測ることを目指した。なるべく離れた2点で北極星の角度を測り、2点間の距離を測れば、子午線の長さを推定できる。そこで彼は、江戸と蝦夷(北海道)を選んだ。ただ、当時は自由な旅行が許されなかったため、地図を作ることを口実とした。結果として、彼はほぼ正確に地球の大きさを測ることに成功したが、彼の名前はむしろ、日本地図製作者として日本史に残ることとなった。彼の生き方は、今の我々にも多くのことを教えてくれる。


61. 推薦者:大久保潤 所属・職名:情報メディア基盤センター・准教授

データはウソをつく : 科学的な社会調査の方法 / 谷岡一郎著. - 筑摩書房, 2007. -- (ちくまプリマー新書)

 いしいひさいち氏の4コマ漫画なども載せながら日常的に接するデータや事実の捉え方を教えてくれる、文系も含めて全員に薦められる一冊。データに騙されてはいけないと言われますが、データを使わないわけにもいきません。大切なのは、データからきちんと事実を捉えて、論理的に考えるという姿勢。それを身につけるための最初の一歩として役に立ってくれる本です。様々な角度からデータや記述を疑い、自分の頭で考えることが大切ですので、もちろん、この書籍の記載そのものを疑って読んでみても面白いかも。

グローバル・シチズンシップ:異文化理解・多価値共存

62. 推薦者:井原基 所属・職名:人文社会科学研究科・教授

選択する力 : バングラデシュ人女性によるロンドンとダッカの労働市場における意思決定 / ナイラ・カビール著 ; 遠藤環, 青山和佳, 韓載香訳. - ハーベスト社, 2016

 国際貿易が進んだ現代のグローバル社会で起こっている女性労働の実態を、ロンドンとダッカの縫製産業におけるバングラデシュ人女性労働者の就労行動や世帯内関係の詳細な実地調査を通じて明らかにした著作。著者のナイラ・カビールは世界で最も影響力のあるジェンダー研究者の一人であり、本書も多くの欧米の大学でジェンダー研究や開発学などにおける必読書としてリーディングリストに入っている。


63. 推薦者:磯田三津子 所属・職名:教育学部・准教授

共に生きる : 多民族・多文化社会における対話 / 塩原良和著. - 弘文堂, 2012. -- (現代社会学ライブラリー)

 今日、外国につながりのある多様な人々が日本で暮らしている。そういった状況の中で、多文化共生ということばが叫ばれるようになった。しかし、異なる他者と共生するということはどのようなことなのかはとても難しい課題である。その課題に取り組むために、本書は、様々な理論や考え方を引用しながらわかりやすく論じられており、真の多文化共生をどのように実践したら良いのかを考える際の基盤となるものである。


64. 推薦者:福井敏純 所属・職名:理工学研究科・教授

間文化主義 : インターカルチュラリズム : 多文化共生の新しい可能性 / ジェラール・ブシャール著 ; 荒木隆人ほか 訳. - 彩流社, 2017

 日本では東京言葉が共通語として広く流通し、多くの学問の教科書が日本語で整備され、学問の先端まで日本語で学べる。高等学校から上は英語で教育という国が少なからずあることを鑑みると、これは日本語ネイティブには幸福な事である。将来の少子化や移民の増加は日本の現状を少しずつ変えていく。本書におけるケベックの考察は、日本の将来に多くの有益な示唆を与えてくれる。本書を推薦してくれた中本進一先生に感謝。


65. 推薦者:奧井義昭 所属・職名:理工学研究科・教授

選択の科学 : コロンビア大学ビジネススクール特別講義 / シーナ・アイエンガー著 ; 櫻井祐子訳. - 文藝春秋, 2010

 人の選択が何に影響を受けるか、実証的なデータを用いて紹介しています。欧米人の子供が絵を描くとき、題材や色を自分で選択することを好みます。一方、アジア人の子供は母親の意向に沿った絵を描くことを好みます。育った環境や文化的背景が、人の選択に影響を及ぼすことが分かります。選択という行為を通じて異文化を理解するとき、異文化への寛容さが養われるのではないでしょうか。

グローバル・シチズンシップ:国際協力

66. 推薦者:辻一人 所属・職名:国際開発教育研究センター・教授

Factfulness (ファクトフルネス) : 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣 / ハンス・ロスリング, オーラ・ロスリング, アンナ・ロスリング・ロンランド著 ; 上杉周作, 関美和訳. - 日経BP社, 2019

 世界の貧困・開発問題の現状と未来について、専門家を含めて私達が陥り易い思い込みや常識を、データではっきりと覆しており、「目からうろこ」です。同時に、人はなぜそのような思い込みをしてしまうのか、心理学や行動科学を踏まえて説明し、我々が地球市民として、変化の激しい現代社会を適確に捉え、未来に備えるためのヒントを与えてくれます。共に明るい未来を築いて行こう!という気にさせる、世界的ベストセラー。


67. 推薦者:辻一人 所属・職名:国際開発教育研究センター・教授

最底辺のポートフォリオ : 1日2ドルで暮らすということ / J・モーダック, D・コリンズほか著 ; 大川修二訳. - みすず書房, 2011

 途上国貧困層の「工夫を凝らした賢い」生活と家計を、バングラデシュ、インド、南アフリカでの多年に亘る家計簿調査から明らかにした画期的著作。貧困層の金融生活は単純なその日暮らしだ、将来に備えた計画性など無い、貧し過ぎて貯金をするのは無理、といったよくある常識が、根本的に否定されます。貧困層の側に欠陥があるのではなく、その生活・生計の態様やニーズを十分反映していない、公式な制度の側に問題があるのです。


68. 推薦者:辻一人 所属・職名:国際開発教育研究センター・教授

アダム・スミスはブレグジットを支持するか? : 12人の偉大な経済学者と考える現代の課題 / リンダ・ユー著 ; 久保恵美子訳. - 早川書房, 2019

 国際協力の前提となる、世界の直面する経済・社会の課題を、偉大な経済学者の理論から読み解きます。登場するのは、スミス、リカード、マルクス、マーシャル、フィッシャー、ケインズ、シュンペーター、ハイエク、ロビンソン、フリードマン、ノース、ソロー。 これだけの理論家が揃っていても、まだまだ経済・社会や人間の行動は不可解なのです。だからこそ、それを何とか理解しようとする一層の努力が期待されます。


69. 推薦者:辻一人 所属・職名:国際開発教育研究センター・教授

国際協力 : その新しい潮流 / 下村恭民, 辻一人ほか著. -- 第3版. - 有斐閣, 2016. -- (有斐閣選書)

 国際協力についての基本的な頭の整理に便利です。その定義、仕組み、アプローチの変化、今世紀に入ってからの新しい潮流、貧困削減、平和構築と復興、地球環境問題と持続可能な開発、途上国のオーナーシップとガバナンス、グローバル・ガバナンス、民間資本の機能、市民社会の役割、変容する国際開発戦略など。ややスタンダードな内容ですが、これらに挑戦する理論と実践が求められています。読者による批判を期待したいところ。

グローバル・シチズンシップ:社会に生きる

70. 推薦者:安藤聡彦 所属・職名:教育学部・教授

みな、やっとの思いで坂をのぼる : 水俣病患者相談のいま / 永野三智著. - ころから, 2018

 「水俣病」という名前は聴いたことがあっても、詳しいことは知らない、という方が多いのでは。この小さな本は、熊本県水俣市にあるNGOの若き事務局長として、水俣病という巨大な公害問題の患者さんたちの生活相談にのってきた著者が、そこから見えてきた患者さんたちの素顔とその背後にある社会とを綴った本です。この本を読んだら、ぜひあなたも実際にいちど水俣にでかけ、著者の永野さんと話してみてください。たぶんうんとテツガクできるはず。


71. 推薦者:石井昭彦 所属・職名:理工学研究科・教授

大気を変える錬金術 : ハーバー、ボッシュと化学の世紀 / トーマス・ヘイガー [著] ; 渡会圭子訳 ; 白川英樹解説 ; 新装版. - みすず書房, 2017

 フリッツ・ハーバーとカール・ボッシュによる、窒素と水素からのアンモニア合成法の開発物語ですが、単なる成功物語ではなく、「はじめに」に「他者の幸せを目指す科学が、政治、権力、プライド、金銭、そして個人的な欲望と対立した時にどうなることを描くことだ。」とあるように、ナチス政権下での葛藤や同時代に活躍した科学者間の人間模様が生々しく描かれています。科学者の社会的責任を考えさせる白川英樹博士の解説も読み応えがあります。


72. 推薦者:石阪督規 所属・職名:基盤教育研究センター・教授

日本列島回復論 : この国で生き続けるために / 井上岳一著. - 新潮社, 2019. -- (新潮選書)

 社会を覆う漠然とした閉塞感。国土が崩壊し、人間の居場所が失われるかもしれないという不安感。希望や夢を語ることが難しくなってしまった閉塞、不安に満ちたこの時代に、日本の「国土」と「地方」は、私たちを救ってくれるのでしょうか。「山水郷」を振り返り、今と、これからの日本について語る、新たなイノベーション、SDGsの思想にもとづく列島「回復(リカバリー)」論です。「地域創生を考える」ためのヒントが数多く盛り込まれている良書です。

グローバル・シチズンシップ:健康科学

73. 推薦者:西尾尚美 所属・職名:教育学部・准教授

図説国民衛生の動向 / 厚生労働統計協会編集. - 厚生労働統計協会

 本書は、我が国の保健医療行政や、様々な健康に関する統計が詳細にまとめられている「国民衛生の動向」の図説ダイジェスト版で、現在の日本の国民の健康状態、健康を取り巻く環境、行政などのリアルな実態が図表などで簡潔にまとめられています。ですから、医療福祉関係者のみならず、一般の方々にもわかりやすい内容となっています。 さらに、毎年発行され、常に最新のデータが掲載されているので、日本の健康に関する現状把握のために有意義な書物です。


74. 推薦者:落合洋士 所属・職名:保健センター・教授

ウィトゲンシュタイン : 天才の責務 / レイ・モンク著 ; 岡田雅勝訳 ; 1, 2. - みすず書房, 1994

 20世紀を代表する哲学者ウィトゲンシュタインの詳細な伝記です。彼自身が抱えた精神障害と彼の精神障害観、精神障害に対する彼の治療的な思想・行動が、随所に記されており、人文科学的視点から精神的健康について理解を深めることができます。


75. 推薦者:近江翼 所属・職名:保健センター・准教授

現代臨床精神医学 / 大熊輝雄原著. -- 改訂第12版. - 金原出版, 2013

 文理を問わず精神医学に関する知識を広く深く記載し、1980年の初版から数年毎に改訂され続けている教科書的労作で、医学生や研修医や精神科医のみならず、精神保健や福祉に携わる人、精神医学に一般的関心を持つ人まで、幅広い読者層を持っています。精神医学の歴史と最新の知識を踏まえ、精神的健康について特定の理論に偏らず全般的に考えるのに役立ちます。第1?5章が総論、6?11章が各論で、各論では様々な精神疾患を扱っています。

グローバル・シチズンシップ:スポーツ

76. 推薦者:有川秀之 所属・職名:教育学部・教授

脳を鍛えるには運動しかない! : 最新科学でわかった脳細胞の増やし方 / ジョン J.レイティ, エリック・ヘイガーマン著 ; 野中香方子訳. - NHK出版, 2009

 ハーバード大学医学部臨床精神医学部准教授のジョンJ.レイティ氏(医学博士)の著作で、米国イリノイ州ネーパーヴィル学区の高校体育教師が、独自の体育プログラムの実践を通して生徒の学力を向上させたこと、運動をすることにより脳内の神経化学物質が増えたりバランスが良くなることで、うつ病やADHDを改善することなど、運動のメリットを幅広く科学的研究成果や事例をもとにわかりやすく紹介している。


77. 推薦者:松本真 所属・職名:教育学部・准教授

身体感覚を取り戻す : 腰・ハラ文化の再生 / 斎藤孝著. - NHK出版, 2000. -- (NHKブックス)

 日本人がかつて持っていた腰・ハラに注目した身体文化について、再評価している。この伝統的な身体文化は、明治以降日本人が重んじてきた西洋的な発想の合理主義とは、一線を画すものであり、私たちが伝統として持っていた文化に思いを馳せると共に、そこから、現代の日本人に必要となる身体感覚にヒントを与えてくれるものである。特に、スポーツを実践している人には、自分の身体について考えるきっかけを与えてくれると考える。


78. 推薦者:松本真 所属・職名:教育学部・准教授

オフサイドはなぜ反則か / 中村敏雄著. -- 増補. - 平凡社, 2001. -- (平凡社ライブラリー)

 フットボールは、オリンピックやワールドカップ等で、世界中の人々を熱狂させる近代スポーツである。しかし、元々は、単なるイギリス固有の身体文化である。それが、なぜ現代のように世界的な文化になったのか。本書はこのような疑問に、イギリス発祥のフットボールの成立時に培われた「エートス」と、この「エートス」を表現する代表的なルールとして成立した「オフ・サイド」を検討することで、解き明かそうとするものである。