機械学習によるターボ機械の内部流れの再構築(姜)


ニュートンの運動方程式のように物体運動は一般的に微分方程式で記述されています. その微分方程式を解析的(=鉛筆と紙で),もしくは,数値的(=計算機で)に解くことによって,物体の状態を推定しています. 本研究室では,物理法則から物体の状態を推定することではなく,観測データから物体の状態を推定する方法について研究しています.


                                    

           左:物理法則から推定した流れ場                      右:機械学習によって推定した流れ場


ターボ機械の動特性に関する研究(姜)


自動車のターボチャージャーや人工心臓用ポンプ(VAS),容積型ポンプの下流に設置されるターボポンプなどは,他のシステムや生体の脈動流下で作動されます.過去の研究で流量変動が本質的な役割を果たす問題,たとえば水撃現象, サージング現象,ポンプを含む複雑な系の自励振動現象などにおいて,ポンプの特性はいずれも静的特性現象に従うものとして解析が進められてきました.しかし,変動周波数の高い現象にはどこまで適切な仮定なのかまだ解明されていません. そこで,本研究室では,非定常時におけるターボ機械の挙動を数値計算・実験・理論解析によって調査しています.


                                 

左:ロケットエンジンで発生するキャビテーションサージ     右:ロケットエンジン用のポンプ内部の流れ場


シンセティックジェットを用いたマイクロ推進機の開発(姜)


シンセティックジェットとは噴出と吸込みを交互に繰り返し,噴流出口では時間平均質量流量が零であるにも関わらず,噴流下流には連続噴流と似た流れ場を持つ流れです. 類似の流れ場にはイカやタコの推進方法があり,メカニズムを解明していくことで,新たな動力源として期待できます. 従来の連続噴流型と比較して,小型軽量化が容易である点がメリットとして挙げられます. 本研究ではこのメリットに着目し,自走可能なカプセル内視鏡などのマイクロ推進機開発を目指して,CFDや実験を行うことでシンセティックジェットの推力発生メカニズムについて調査しております.


                                 

        左:シンセティックジェットの可視化画像         右:シンセティックジェットの数値計算結果


多孔壁に衝突する噴流特性に関する研究(姜)


水素社会の実現に向けて,現在さまざまな取り組みが行われており,私たちの身近には, 水素自動車や家庭用燃料電池「エネファーム」といった形ですでに浸透しつつあります. その中でも,更なる水素の使用拡大のために,水素ステーションの設置は必須であり,都市部において水素ステーションの保安距離の縮小が求められています. そこで本研究室では,多孔を有する障壁を用いて水素ステーションの保安距離の縮小を目指し,多孔壁を通過する噴流の特性を調査しています.


                                   

上:多孔質に衝突する噴流の可視化画像

機械学習による微粒化のモデル化(姜)


霧燃焼、インクジェットプリンタ、シャワー等に液体微粒化技術が応用されていますが、これらの技術は、 経験的に得られた知見や適用条件が制限されたモデルを拠り所に開発されており、開発に膨大な時間と費用がかかっています。 そこで本研究室では,微粒化物理モデル導出の第1段階として、簡素な系として単一液滴が気流によって微粒化する現象 を機械学習によって予測できるモデルを構築しています.


                                   

上:高速流れ中に微粒化される一液滴の可視化画像

二枚柔軟シートのフラッタの特性(姜)


薄いシートの片端を流体中に固定すると、シートのバタつきが生じることがしばしばあります. このようなバタつきはシートの挙動と気流の運動の干渉によって自励的に発生します. シートフラッタの代表的な例として、気流中で旗がはためく現象があげられます. フラッタは、物体の運動により流れに変化が生じ、その流れの変化が再び物体の運動に影響を与えるというように、 物体の動きと流れの変化の相互干渉により発生します.本研究室では,2枚柔軟シート間の干渉について研究を行っています.


                                   

上:二枚のシートフラッタの様子の解析結果

二つのバブルの相互干渉に関する研究(姜)


レーザー光を水中にフォーカスすると,水中で鋭い音とともに極めて球状性の高い気泡が発生します. 二つの気泡の挙動はマルチ気泡系の力学における最も単純な挙動であり重要であります. しかし,二つの気泡が生成から崩壊までの間にどのような挙動をするのかについては不明な点が多く,詳細な挙動の解明が求められています. そこで本研究室では,二つのレーザー誘起キャビテーションバブルを生成させ,二つのバブルの相互干渉を調査しています.


                                   

上:二つのバブルの相互干渉の可視化様子

水中気泡の振動挙動の可視化とシミュレーション技術の開発(平原)


水と空気の2相流では流れに伴う『音』が発生しますが、この音の発生源はほとんどの場合水中の気泡がその音源となっています。日常の生活の中で聞く、小川のせせらぎ、滝が流れ落ちる音、浜辺で波が寄せる音、水道管の中を水道水が流れる時の音など、水中に発生した気泡の振動音です。この水中の気泡から発生する音のメカニズムを調べるために、微小な変位(±数μm)を画像強調技術で拡大して観察する研究を行っています。また、観察した結果をもとに、その物理的な特性を再現できるCFDシミュレーション技術の開発にも取り組んでいます。実験計測~画像処理~シミュレーション技術を組み合わせ、自然現象のメカニズムを可視化する研究です。


    


回転ジェットによる混合技術の開発 (平原)


混合技術は,化学,薬品,金属,バイオ,食品おける重要な技術の一つです.本研究室は,回転噴流による混合技術を開発しています.





レーザー誘起衝撃波の応用(平原)


近年細胞工学において,細胞に圧力波による機械的刺激を負荷することで,それによる応答を解明する研究が多くなされています.そして現在までに,急激な圧縮力を及ぼすことが可能な水中衝撃波に関する研究や医療応用例が数多く存在しています.そんな中我々は,衝撃波とは対照的に,急激な引張力を及ぼすことが可能な膨張波に着目し,研究を行っています.レーザによって水中に誘起させた衝撃波をシリコン製の装置により膨張波へと変換し,収束させる研究を行っています.発生させた膨張波をシャドウグラフ法によって可視化するとともに,膨張波圧力を測定することにより,水中膨張波の特性解明に向けて調査を行っています.


    


Votex Tubeのエネルギーの輸送メカニズムの解明 (平原)


Vortex Tube(以下VT)は圧縮空気を円管内に供給することで全温度分離を引き起こす装置として,工業的に局所冷却器として用いられています.下図のようにチューブに圧縮空気を供給することで,流体間で全エネルギーが移動し,エネルギーが減少した冷気と上昇した暖気がそれぞれ放出されます.VT自体は機械的なメカニズムなしで冷却を行えることから,小型で軽量,メンテナンスフリーといった様々なメリットを有しており,応用的な利用が期待され,全温度分離メカニズムの解明と性能向上にむけて研究が行われています. 本研究では,数値流体解析を用いて全エネルギーの輸送メカニズムの解明と,性能向上を目指して研究を行っています.





多翼ファンの高効率化かつ小型化技術の開発 (平原)


近年の自動車業界では,次世代自動車の普及や車室内快適性の向上が行われています.このことから,自動車のHVACには,消費電力削減のための高効率化と,車室内のレイアウトに自由度を持たせるための小型化の両立が求められています.本研究では,既存のファン形状に囚われない全く新しいファン形状で,現在のファン性能を維持しつつ,小型できる設計手法を見出すことを目標にしています.現在は数値流体解析を用いることで,ファン内の流れ場を分析し,ファン内部で発生する剥離を抑制することでファン性能を向上させるための形状変更の検討を進めています.



低流量域熱交換器チューブの熱伝達促進(平原)


現在自動車業界ではハイブリッドやEVなどのモーターを使った技術革新でのエコ省燃費化と,排気量を小さくしてターボチャージャーなどの過給機でパワーを出し,燃費を良くしていく技術での省燃費への取り組みが見られます.過給機に用いる熱交換器は、水冷式の場合,サブラジエータやポンプが別に必要であるなど部品数が多くなってしまうため,スペースの問題などからポンプが小さくなり冷却水の循環速度が低速になってしまいます.よって冷却水が低流量の熱交換器における熱伝達、冷却性能の向上が求められています。本研究では、流路に突起を設置して石灰的な流れを発生、持続させることで熱伝達を促進させます。そして低流量域での熱伝達を促進させつつ圧力損失を抑える突起形状や配置の最適化を図り、検証する事を目的としています。



温度混合のPIV解析(平原)


車載用エアコンとして使用されているHVACは,高温空気と低温空気を任意の流量比で混合し車内のそれぞれのダクトから異なる温度を送風するため,正確な温度分布を作り出すことが求められています.これまでHVACの簡易モデルで様々な解析が行われており,計算モデルの乱流プラントル数を部分的に0.1にすることで実験値と合わせる手法がありますが,分子運動論の視点から物理的に問題があり,乱流プラントル数では解決できない問題があります.本研究ではHVACの特徴である二流体の混合過程を,PIVという手法を用いて10kHzの高速度で連続的に撮影し,平均場ではとらえられない渦運動や速度分布の時系列的な変化を取得し,解析を行っています.



噴霧ノズルによって生成される微粒子の光学計測 (平原)


ガスタービンなどでは,液体燃料がノズルを通じて,細かい液滴燃料からなる噴霧となり,燃焼機内に供給される.近年環境問題への関心が高まり,効率よい燃焼のために,燃焼器内に形成される噴霧場の高度な制御が要求されている.そのため,噴霧特性の把握や,ノズルの性能評価等の観点から,液滴の径と速度場の同時計測が必要となる.本研究室では,単純な光学系とデジタル画像処理を利用した液滴の径と三次元速度場の同時計測を行っている.レーザによって照明された液滴からの照射光によって生じる輝点対を,ステレオ配置したCCDカメラによって撮影し,得られた画像の解析から液滴径が評価され,さらに3D-PTVを行うことで速度3成分が得られます.


    


多翼ファンの低騒音化技術の開発(平原)


 近年,自動車業界において,ハイブリット車や電気自動車の開発に伴い,自動車内の低騒音化に注目が集まっていきます.エンジン音の低減が進む中で,その次のターゲットとして空調装置が取り上げられており,空調装置の低騒音化の流れは今後ますます加速していくと考えられます.本研究は,空調装置のファンを対象として,ファン内部の流れをステレオPIV計測(粒子画像流速測定法)によって三次元的に可視化することで騒音源や発生機構を探り,低騒音ファン開発技術への支援を目指しています.


    


車室内快適性向上設計のための車室内熱輸送解析(平原)


 車室内快適性は低炭素社会における交通機械の開発において重要な要素です.中でも乗員の快適性向上のためには、車室内部の熱環境の可視化と環境変化の予測することが重要です.乗用車内の熱環境は日射による影響が支配的であり,日射による影響を計算に含めた数値計算モデルが必要となります.本研究では,車室内部の熱環境が評価可能な数値計算モデルを確立して,乗員の熱快適性評価を行う際に有益な熱流体のパラメータを求め,車内の熱輸送を効率的に計算する方法について検討しています.


    


ゴルフボールの飛翔特性のPIV計測と数値解析 (平原)


ゴルフボールにはディンプルと呼ばれる凹みが表面についています.これにより,ボール表面上の境界層流れは層流から乱流に遷移し,ボールがよく飛ぶようになります.ボールのディンプルから放出される縦渦は,ディンプル形状に非常にセンシティブで,その形状のデザインにより飛翔特性が大きく左右されます.本研究では,実際に飛翔しているゴルフボール周り流れのPIV計測を行うとともに,数値流体計算を用いてゴルフボール周りの流れを解析しています.実験と計算の両輪でディンプルから放出される微小渦の輸送について研究し,世界トップのゴルフボール開発を進めます.





チェビシェフ型搖動式マイクロ風車の開発(平原)


チェビシェフ型の風車は,8の字のループを描いて搖動する風車で, 本研究室で独自に開発をしているものです.低速・高トルクであり,環境にやさしく,モニュメント的な役割も果たす本風車の開発を試みています.





音響コンプレッサの開発(平原)


有限振幅定在波を利用した音響圧縮機を開発しています.音響振動子の周波数を管の固有振動数に一致させ,共振状態とすることで,音響振動子によって発生した音波の圧力変動振幅を管内で増幅し,他端に集中させます.圧力変動振幅の値が最大となる腹部(端面・半波長)で大気を吸入して圧縮空気を吐出します.この音響圧縮機の最大特徴はオイルレズコンプレッサを構成できることで,微小振動で機械的摺動部を持たないので,クリーンな圧縮空気を供給することができます.

    


吸入薬剤の輸送効率向上を目的とした口腔咽頭および肺への粒子輸送解析(平原)


気管支喘息は気管支の炎症により呼吸困難をきたす発作的呼吸器疾患です.発作時には,ステロイド薬を吸引し,炎症を抑制するのが主流となっています.ステロイド薬の輸送は流体力学的な問題である.例えば,粒子径が大きくなれば流体抵抗が高まると同時に,慣性力も増加します.また,吸引速度により,口腔内の流れが変化するので,薬粒子の輸送も影響を受けます.現在の喘息治療において,処方される薬の粒子径は患者別に分類されているわけではありません.また,指導される吸入方法においても各人の肺活量が考慮されていません.体躯や呼吸流量が患者間において違いがあることに鑑みると,薬剤の粒子径や吸入方法を患者ごとに最適化することで,副作用が少なく,効果的な治療が可能となると期待されます.本研究では,流体力学観点に立つ患者個体別の喘息治療を目的とし,口腔咽頭および肺への粒子輸送現象を解析しています.


        


高頻度換気法におけるガス交換メカニズムの解明(平原)


哺乳類の肺は往復動運動によって,非常に効率良く, 酸素と二酸化炭素の交換を行っています.ヒトの肺は,主気管支から約23回の分岐からなっており,第17分岐以降がガス交換に寄与する領域です.高頻度換気法(HFOV)と呼ばれる人工呼吸法では,1秒間に20回ほど呼吸を行います. HFOV使用時には非定常性が顕著になり, 流れに位相ずれが生じることによって引き起こされる振り子流れ(Pendelluft)がガス交換の促進に貢献していると言われています.本研究室では,呼吸細気管史領域に着目し, PIV法を用いてチャネル内の流れの可視化計測を行っています.





粘弾性ゲルによる圧力の面計測 (平原)


流体計測に関して速度,温度,圧力等のパラメータの多次元計測が展開されているが,圧力計測においては多次元計測の技術の確立が遅れている状況にある.本研究は2次元にセル状に配列された軟弾性体の,圧力による面外方向変位をスペックル法により計測する新しい圧力計測の手法の研究である.従来の圧力計測の手法は,圧力は力であるので,力⇒電圧,力⇒光などの変換が中心であった.しかし,本手法は力⇒変位の変換によって計測を行う.非常に単純な原理に基づいているため,ロバストな計測であり,応用が広がり様々な改良を加えることができる.圧力センサーを埋め込むフレームは自由にヶ字以上を変更することもでき,本手法は測定点数,測定レンジともに拡張性を持つ.図は,流速21.3m/sの小さな噴流の圧力を測定した結果である.




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