埼玉大学理工学研究科・環境制御システムコース 遺伝子環境工学研究室
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研究室概要


 近年、人類の活動による大規模な地球環境の破壊や、急激な人口増加による食料不足が大きな問題となっています。私達は、植物と環境との関わり合いを科学的に解明し、不良環境でも生育可能な植物の分子育種や、環境修復植物技術の開発へと結びつく研究をおこなっています。また、植物の有する環境適応能力を解明して最大限に引き出す事により、植物の有用形質を利用した物質生産システムの構築を目指しています。このため、分子生物学、細胞生物学、生理生化学の手法を用いて研究をおこないます。また、研究対象としては主にモデル植物であるイネやシロイヌナズナ、そして分子生物学のツールとして大腸菌や酵母を用いて研究を進めています。
 例えば、劣悪環境が植物に引き起こすストレス誘導性細胞死の制御に関わる遺伝子をシロイヌナズナやイネから単離し、その因子がどのように植物細胞の生死を制御しているのか、分子機構の解明をおこなっています。この遺伝子の働きを制御することによって、環境ストレスに抵抗性を示す植物の分子育種が可能になると期待できます。また、植物に特異的なエネルギー、物質生産器官である葉緑体の還元力プールの代謝改変によって、強光ストレスに強く、物質生産能力の優れた作物を開発する研究も進めています。植物が有している有用機能を利用し、環境修復の技術を考案することも私達の研究テーマの一つです。
 さらには、植物の成育過程の制御に関わる転写因子として、道管の分化制御に関する研究も進めています。道管には二次細胞壁が形成されます。細胞壁はセルロースなどの多糖やリグニンなどから構成されており、これらの構成要素はバイオエネルギーなどの原料として期待されています。
 様々な環境問題に対してバイオテクノロジーでどのような解決策を提案できるか、一緒に考えましょう。


以下に、現在進行中の主要テーマを示します。

植物の代謝改変と分子育種
代謝改変植物のメタボローム解析
植物細胞死の制御因子の解析
植物成長過程における転写制御機構の解析


【植物の代謝改変と分子育種】
 植物の柔軟な環境適応能力は、細胞内のダイナミックな代謝調節制御の結果です。それらは生物的(ウイルスや細菌、カビなどの病原体や昆虫)、あるいは非生物的(低温、乾燥、土壌、大気汚染物質、紫外線など)ストレスに対し、代謝を柔軟に調節することにより細胞内の状態を保とうとします。例えば、酸化還元反応によるレドックス制御は細胞の恒常性維持の典型的な例です。
 本研究室では、NADPH依存性リダクターゼを発現するイネが、イモチ病、紫外線、過酸化水素などへの耐性を示すことを明らかにしました。さらに現在は、葉緑体内の還元力プールを改変した植物の作成やその表現型の解析などをおこない、光合成能力の増進や物質生産能力の増加を目指した植物分子育種を試みています。
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【代謝改変植物のメタボローム解析】

 本研究室では、メタボローム解析の手法により、内的外的ストレスによる植物細胞内の代謝変動を理解するための研究を行っています。例えば、新たに作出されたストレス耐性品種の細胞内でどのような代謝変化が誘導されたかを解析しています。また環境ストレスに強い特徴を持つ野生植物などを用いたメタボローム解析も進めています。
 これらの研究から、酸化還元に関与する補酵素類のレベル、エネルギー生産系反応、有機酸代謝などの変動を考慮してストレス応答との関係を構築し、植物に由来する食料と環境に関わる分子育種学の基盤を築くことを目標としています。

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【植物細胞死制御因子の機能解析】

  植物は生物的ストレス、非生物的ストレスによって細胞死を引き起こすことがあります。この現象はストレスを受けていない部位に栄養分等を移動させ、個体としての生命を維持するための巧妙な機構です。我々は、特に酸化ストレスによって植物細胞に引き起こされる細胞死の分子機構の解明を目指しています。
 そのため、酵母を用いた植物細胞死制御因子の単離法の開発や、得られた植物因子の機能解析を進めています。これまでの研究から、植物の小胞体膜に存在するタンパク質が植物の酸化ストレス応答に重要な役割を果たしていることが明らかになりました。さらに、このタンパク質がスフィンゴ脂質代謝系の酵素群と複合体を作って植物の酸化ストレス応答に関与していることを明らかにしました。現在、これらの因子の機能を強めたり、弱めた代謝改変植物を作成し、それらの細胞死や環境ストレス応答の変化を解析しています。
 これにより、環境ストレス下の植物細胞の生と死の転換機構を明らかにし、ストレスに強い植物の分子育種へとつなげたいと考えています。

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【植物成長過程における転写制御機構の解析】

  成長過程における様々な制御機構は、それぞれ非常に多くの遺伝子が協調的に機能することで成立しています。つまり、その制御機構に関わる遺伝子全体を調節することが、植物の有用形質の獲得に有効であると期待されます。私たちは、遺伝子の発現を制御する転写因子についても着目しています。これまでに道管を正に制御するVND7と名付けた転写因子を単離しました。また、VNI2はVND7と結合することで、道管分化を負に制御する転写因子であること突き止めました(図)。道管には通常の細胞壁の他に非常に肥厚した二次細胞壁が形成されます。細胞壁はセルロースなどの多糖やリグニンなどから構成されており、これらの構成要素はバイオエネルギーなどの原料として期待されています。つまり、これらの転写因子の発現や活性を調節することで、二次細胞壁組成を自在に改変した植物体の作出が期待できます。また、VNI2転写因子は道管分化以外の転写制御機構にも関わることが明らかになりつつあります。このような転写因子の役割を明らかにしながら、有用な形質をもった植物体の選抜・作出を目指しています。

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埼玉大学 理工学研究科
教授    川合真紀

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