Research
研究テーマ
背景
私たちを取り巻く環境は、気候変動やエネルギー問題、食料問題など地球規模で取り組まなければならない様々な難題に直面しています。
そうした中、持続可能な社会成長を可能にするためには、カーボンニュートラルをはじめ、持続可能な開発目標(SDGs)に資する様々な取り組みが必要です。
本学では、これまでにグリーンバイオ研究センター、戦略的研究部門グリーン・環境領域、戦略的研究部門ライフ・ナノバイオ領域を中心に、植物科学や環境科学の分野で世界をリードする研究成果をあげてきました。
本領域では、これまでの植物科学・環境科学分野の研究をさらに発展させるとともに、カーボンニュートラルや環境保全を目指した社会実装や国際貢献を意識した応用研究を展開します。生命科学の研究開発を通して、生物の持つ機能を最大限に引き出し、食・健康・エネルギーに貢献するグリーンバイオ支援社会の実現を目指しています。
グリーンバイオサイエンスの取り組み
本領域は6つのユニットからなり、グリーンバイオ技術によるカーボン資源の生産強化と高付加価値化、環境保全に特に力を入れています。
テーマ:光合成科学を基盤とするグリーンエネルギー創出・環境食料保全
環境ストレスに対する光合成の応答機構を微細藻類や植物を用いて分子レベルで研究しています。
また、微細藻類を用いたバイオ燃料生産も行っており、光合成の機能改善によってバイオ燃料生産の効率と環境耐久性を向上させ、カーボンニュートラルに資するクリーンな次世代再生可能エネルギーの開発(SDG 7)や気候変動への対策(SDG 13)に貢献することも目指しています。
有害赤潮藻類の光合成や生理・生態学に関する研究も行っており、赤潮発生メカニズムや魚毒性メカニズムを解明し、魚介類・海苔類の養殖を赤潮被害から防御する技術を開発して、海洋資源の保全(SDG 14)や食料の安定供給(SDG 2)に貢献することを目指しています。
テーマ:水ストレスに関する植物の生理学的応答の解析、水ストレス耐性に関わる遺伝子の解析
地球規模での気候変動により、近年、干ばつや降霜などによる農作物の甚大な被害が世界中で頻発しています。
このような環境ストレス下において作物の生産性を維持するためには、植物が環境を感知する仕組みや環境に適応する仕組みを分子レベルで解き明かすことが不可欠です。
当ユニットでは、乾燥や冠水、凍結など、植物が水ストレス環境を感知する仕組みの解明と、多面的な植物環境ストレス評価系の開発を研究の中心としています。ここから得た知見をもとに、気候変動への対策(SDG 13)や食料の安定供給(SDG 2)などの開発目標に資する技術基盤の形成を目指しています。
テーマ:シアノバクテリアの分子生物学を基盤とする環境ストレス耐性育種・有用物質生産 / シアノバクテリアの環境応答・代謝制御機構の解明とその応用展開
生命史上はじめて酸素発生型光合成能を獲得し、海水、淡水、陸上、さらに極域、温泉、砂漠、塩湖などの極限環境下にも生息域を広げることに成功したシアノバクテリアに着目し、その環境応答の分子機構を明らかにすることで、変動する地球環境に対処するための育種技術の開発に貢献することを目指しています(SDGs 2、13、15)。
また、シアノバクテリアの光合成や糖代謝の制御機構や、新規脂質合成酵素の機能を解明し、光合成能を活かしたカーボンニュートラルな有用物質生産の推進に貢献することも目指しています。
テーマ:バイオマス資源としての植物細胞壁の特性理解と改良に関する研究
植物が同化した炭素の大半は細胞壁の多糖類として蓄積しています。
私たちは、地球上で最大のバイオマス資源である植物の細胞壁多糖類の有効利用(SDGs 13, 15)を目指します。
具体的には、植物生体内で有用な細胞壁多糖類が合成・修飾・分解される仕組みを理解し、これらの蓄積量や構造を支配する因子を同定します。
また、食事に含まれる細胞壁多糖類は、腸内細菌叢に影響する「プレバイオティクス」効果などが注目されています。
ヒトの健康増進に資する細胞壁多糖類の研究を学内外の共同研究者と共同で進めていきます(SDG 3)。
テーマ:持続可能な消費と生産を確保し、生物多様性の損失を防止するエコトキシコロジー
環境中に排出された化学物質の生体影響を評価する試験手法の開発を進め、化学物質の毒性メカニズムを解明するための研究をしています。
化学物質の影響が特に懸念される鳥類に焦点をあて、動物愛護の観点から動物実験の代替法となり得る鳥類胚(受精卵)を用いた生殖発生毒性評価試験法を開発することを目標にしています。
また、鳥類における脳の性分化機構と内分泌かく乱による性分化異常の発生メカニズムの解明を目指した研究も行なっています。生物多様性の急速な減少は化学物質の環境汚染が一因であるとされており、環境上適正な化学物質の管理が求められています。
また、化学物質の管理は持続可能な消費と生産のパターンを確保する上でも重要です。本研究の成果を発信することで、SDGs達成に向けた社会貢献を目指します(SDGs 12, 15)。
テーマ:植物脂質科学を基盤とするグリーンバイオインダストリー技術の創出
植物が光合成によって生産する代謝物質の中で、特に脂質分子に着目して研究を行っています。
植物体内にはさまざまな脂質分子が存在し、環境応答に重要な生体膜の機能維持や、種子の主要な貯蔵物質として重要な役割を担っています。植物脂質代謝系の分子生理学研究を通じて、環境ストレス耐性作物の作出や、必須脂肪酸およびバイオ燃料源となる植物油の増産を目指します。
また、スキンケアをはじめヒトの健康に有用な生理活性セラミドを、植物代謝酵素を用いて生産する新技術の開発を進めています。植物の多彩な物質生産能力を活用して社会に貢献するグリーンバイオインダストリーの発展に貢献します。
本領域と関連するSDGs