バクテリアなどの有用な酵素タンパク質を植物の葉緑体に移動させる仕組みも試験管内技術を駆使して確立してきました。エンドウマメの葉緑体をきれいに単離し、試験管の中で、葉緑体に移動する仕組みを獲得させたタンパク質と単離した葉緑体を混ぜると、短時間内に葉緑体の中へ動きます。この実験系自体は我々の開発技術ではありません。我々は、無細胞系でタンパク質を自在に合成できるシステムと併用することで、もともと葉緑体に移動する性質が無かったタンパク質を改変し、その中から葉緑体移行型のタンパク質を選び出す効率を格段に上げることに成功しました。この新たに作り出したタンパク質の遺伝子を植物に形質転換することにより、葉緑体に新たな機能が加わった植物を作ることができます。
さらに、単離した植物の葉緑体から葉緑体翻訳系を試験管内で再構成することにも成功しました。植物細胞をすり潰した場合、その抽出液には細胞質ゾル由来(80Sリボソーム翻訳系)、ミトコンドリア(60S)および葉緑体(70S)の異なる3種類のタンパク質合成系が混ざり合った形でしか得ることができません。名古屋市立大学との共同研究により、我々はエンドウマメ葉緑体のタンパク質合成系を試験管内で動かすことができるようになりました。この系により、実際に除草剤などがどのように翻訳装置の阻害を起こすのかなど、様々な疑問を直接検証することが可能となりました。葉緑体は「細胞」ではなくオルガネラなので、無細胞系と呼ぶのは厳密には相応しくないので、試験管内翻訳系と呼ぶべきですが、やはり良い試験管内システムは、「多様なタンパク質群のシンフォニーの妙」を垣間見ることを可能にするたいへん魅力的かつ便利な解析ツールです。
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