研究内容

テーマ5:前駆体集積法によるナノ酸化物の合成とその機能開拓


私たちは「前駆体集積法」と命名した新しい酸化物ナノ構造体の合成法を開発しています。
Chem. Mater., 2006,Chem. Commun., 2007など)

前駆体集積法はシンプルな液相法で,特別な装置や過酷な合成条件を必要としません。酸化物の前駆体を溶かした溶液をナノカーボン粉末に滴下して,これを乾燥するだけで,前駆体をナノカーボンの表面に均一に集積できます。加熱処理によりナノカーボンを焼成除去すると,酸化物ナノレイヤーが生成します。前駆体集積法で合成できる酸化物の種類は多岐にわたります(SiO2, Al2O3, ZrO2, TiO2, Co2O3, NiO, Fe2O3, ペロブスカイト, フェライトなど)。

私たちは前駆体集積法を深化させ,酸化物ナノ材料合成法の選択肢のひとつにすることを目標としています。

Recent Study

前駆体集積法によるペロブスカイトナノ粒子の合成と触媒利用 (RSC Advances, 2021)

ペロブスカイト型酸化物(ABO3)は,構造歪みの制御によりさまざまな物性変化を誘起できる魅力的な材料です。しかしペロブスカイト型酸化物は複数の金属カチオンを構造に含むため,合成方法が限られています。「混ぜて焼く(固相法)」のは単純かつ古典的な合成法ですが,高温を要するため表面積は著しく低くなってしまい,触媒利用には適しません。そこでいくつかのそこでソフト化学的な低温合成法が提案されています。低温ソフト化学合成では「異種の金属カチオンをあらかじめ分子レベルで混合する」ことが重要です。私たちは前駆体集積法により炭素表面を合成場にして「前駆体の分子レベル混合」を行い,高表面積のペロブスカイトナノ物質群を低温合成できることを見出しました。さらにLaCoO3ナノ粒子が水の電気分解のアノード反応にきわめて高活性を示すことを明らかにしました。
シリカナノレイヤー合成における炭素表面官能基の影響 (Langmuir, 2020)
H. Ogihara, N. Usui, M. Yoshida-Hirahara, H.i Kurokawa, Langmuir, 2020.

これまで前駆体集積法でシリカナノレイヤーを合成する場合には,前駆体として四塩化ケイ素(SiCl4)を用いてきました。SiCl4は加水分解されやすく,前駆体集積と同時に加水分解が進行してシリカ層をすみやかに形成する性質をもつためです。しかしSiCl4は分解時に塩酸を発生するなど,取扱いに注意を要する物質です。そこでもっとも代表的なケイ素前駆体であるオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)をもちいてシリカナノレイヤーの形成を試みました。炭素表面に官能基を導入することで炭素表面でのTEOSの加水分解が促進され,シリカナノレイヤーが合成できることを明らかにしました。

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