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1.水素とレアアース
水素(H)は、酸素(O)と結合して水(H2O)をもたらすだけなく、炭素(C)と共に生物を構成する主要な元素で、地球上の至る所に存在します。
一方、レアアースと呼ばれる元素群―ランタノイド系列元素にスカンジウム(Sc)とイットリウム(Y)を含めた元素を希土類元素(レアアース)という―
が地中に埋まっていますが、実際の埋蔵量は、金(Au)などの貴金属よりは多く、それほど"レア"ではありません。
水素は、酸素の次ぐらいにこのレアアース(R)と反応しやすく、RH2やRH3という化合物をつくり安定化します。
仮に、地球上に酸素が無かったならば、全ての水素は、レアアースと結合し、RH2やRH3は天然に存在していたかもしれません。
私たちは、この、RH2やRH3を人工的に作製する研究を行っています。このような水素吸蔵体に着目する理由は、主に2つです。
第1の理由は、元素循環による資源有効活用という観点です。
これらの水素吸蔵体を加熱し、あるいは水素雰囲気中で減圧、あるいは電解液中で電圧を加えるというシンプルな、そして、おそらく低コストな工程によって、
全ての水素が脱離してきます。
一旦、役目の終わった水素吸蔵体を、水素とレアアースを分離回収可能し、次の用途として待機させることが出来ます。
水素エネルギーを安全に蓄えるという観点ならば、もちろん、レアアースに水素を吸蔵させたままでもよいでしょう。
水素とレアアースで持続的に物質を循環させます。
第2の理由は、RH2(二水素化物)やRH3(三水素化物)は、大変奇妙なことに、元々のレアアースとは全く異なる性質を示すからです。
レアアースは導電性が高い金属ですが、二水素化物RH2にすると、導電性がさらに5倍程度高くなります。
一方、三水素化物RH3は半導体(電気を程々に通すが、可視光を通さない結晶)もしくは絶縁体(電気を全く通さないが、可視光を通す結晶)です。
また、ガドリニウム(Gd)というレアアースは室温下で強磁性体ですが、GdH2は室温では常磁体であり、約20 Kという低温でようやく磁性を示しますが、
強磁性ではなく反強磁体です。
このようにレアアースは水素と結合することにより、電気的、光学的、および磁気的性質が劇的に変化しますので、この性質を上手に利用すれば、
他の材料では真似の出来ないことを達成できるのではないか、と期待して止みません。
例えば、私たちのこれまでの研究によって明らかになったことは、二水素化物のRH2(R=Sc, Y, Gd)では、グラファイト(C)のような半金属の様に、
電子の他に正孔も電気伝導に寄与すると云うことです。
すなわち、RH2は両極性伝導体であることが分かりました。
しかも、電荷の符号こそ違いますが、電子と正孔の性格(濃度、移動度)が非常に似ていることも分かりました。
これらの理由に基づく取り組みとして、私たちは、RH2を利用したスピン流の発生機構に関する研究を行っています。
スピン流は、電荷の流れ(電流)は伴わないけれども、スピン角運動量が流れている状態です。
電流が無い分ジュール熱発生が消失するので、スピン流を利用した情報の記録、伝送、演算の低消費電力化に応用する研究―スピントロニクス―
が世界中で活発に行われています。
しかし、両極性伝導体であるRH2を用いたスピントロニクス研究は私たちがはじめてです。
RH2を用いる意義(メリット)については次節で説明します。
2.両極性伝導体RH2におけるスピン流
3.スピン流を利用する論理演算素子
4.その他の主な研究:非局所光学応答とナノスケール評価
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