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卒業論文概要THESES

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2011年度

鈴木芙実

雑草のフェノロジーに着目した栽培教育の生態学研究

 学習指導要領が改訂され,小学校生活科では生命の尊さや自然の素晴らしさを実感する指導の充実がより一層重視されている。とりわけ植物を育て,土に触れる栽培教育の学習効果に期待が寄せられている。しかし教育現場では,教員の時間的・労力的な制約から継続的な栽培学習の実施が困難な状態にあり,活動から得られた児童の気付きを質的に高める指導まで至らない事例が少なくない。この改善案の一つとして,もっとも身近に生育し,地域によらず共通性の高い素材である雑草の教材化が挙げられる。
 本研究では,学校内にみられる雑草の生活史に着目したフィールド授業を実施し,雑草の教材的価値を見出すことを目的とする。児童が興味を示した指標種について発芽から結実まで観察し,その過程で生じる児童の素朴概念を取り上げ,生命現象や生態系とのかかわりに関する思考を深める授業を展開する。そして,児童の学習意欲や態度から雑草教材の教育的効果の評価を試みる。

成田優也

小学校教育における栽培学習の取り扱いとその教育的効果

 平成20年に学習指導要領が改訂され,児童の「生きる力」の育成を重視した教育活動が段階的に進められている。これに伴い,小学校教育の「生活科」や「総合的な学習の時間」における体験学習の充実が図られ,栽培学習の果たす役割に期待が寄せられている。しかし,教育現場において系統的な栽培教育が十分に確立されておらず,明確な指導指針も定まっていないのが実情である。
 そこで本研究では,小学校で履修する全教科の教科書を対象とした「栽培」に関する文献調査を実施し,小学校教育全体で栽培学習がどのように取り扱われているかを明らかにする。また,教育現場で実践されている栽培教育活動の事例を集約し,教科書の表記が指導法や子どもたちの感性にどのような効果をもたらしているのかを評価する。本研究は,小学校課程の栽培授業の改善に資するものである。現行の栽培学習に関する課題点の抽出ならびに教育的効果を探りながら,今後の栽培教育の指針を示す。

2012年度

菊田銀平

中学校教育の栽培学習に関する教科書分析

 昨今,食料の安定供給と環境保全の両立に関する意識啓発が促進されつつある。しかし,その理念がいまだ実社会に正しく反映されているとはいえない。中学校教育では,今年度から技術・家庭科技術分野において「生物育成に関する技術」が必修化され,生徒は栽培技術が社会や環境に果たす役割について学び始めている。倫理観と技術力を兼ね備えた人材の育成の根幹を担う中学校教育において,食料生産に関する理解の醸成を図る意義は大きい。
 そこで本研究では,さいたま市の中学校で履修する全教科を対象とした教科書分析を実施し,中学校教育全体で栽培教育がどのように扱われているかを明らかにする。「栽培」に関する記載を網羅し,環境教育と食育の視座も踏まえながら,栽培教育が持続可能な社会の構築へ向けてどのように奏功するかについて考察する。

石川莉帆

小・中学校における栽培学習の現状と課題に関する研究:「C 生物育成に関する技術」必修化を迎えて

 平成20年度に改訂された新学習指導要領において,栽培学習がもたらす教育効果(児童・生徒の生命観や環境保全へ寄与する態度の育成)が再評価された。これに伴い,平成24年度から中学校技術・家庭科技術分野では「C 生物育成に関する技術」が必修化され,小学校でも自然体験の一環として栽培学習の充実が図られている。しかし,教育現場における教員の時間的・労力的な制約から栽培学習の円滑な実施は困難な状況にあり,系統的な指導法さえ未だ十分に確立されていない。
 そこで本研究では,埼玉県内の小中学校教員を対象としたアンケート調査を行い,栽培学習の実施状況を把握するとともに,抽出された課題の解決策について検討する。アンケートでは,栽培学習の授業時間数や実施場所のほか,教員の意識や知識,栽培学習実施の障害等を明らかにする。その分析結果をもとに,栽培学習を妨げる問題点を顕在化し,現状に鑑みた栽培学習のあり方について提案する。

齊藤亜紗美

学校園の土壌診断に関する栽培土壌学的研究

 土壌は豊かな生物多様性を育み,生物的作用のほか物理的・化学的作用を呈する動的な存在であり,環境教育や土壌教育の視座からその教育的価値が見直されつつある。学習指導要領の改訂に伴い,教育現場では栽培学習をとおして土に触れる機会が増大している。しかし,学校園の土壌が必ずしも健全な状態とはいえない学校が散見され,栽培学習の実施を煩雑にする一因となっている。これは,学校園が栽培に適した土壌であることを示す「指標」の不確定さに起因することが示唆され,教育現場で実践可能な土壌診断について検討することは直近の課題といえる。
 そこで本研究は,土壌の団粒構造に着目してその指標化をめざしつつ,物理性・化学性の両面から土壌診断を行い,学校園の地力改善を図ることを目的とする。本研究は土壌教育の教材開発に資するものであり,土壌診断結果をもとに,学校園の土壌環境に適した作物の一覧図(作物栽培マップ)の作成を試みる。

田代しほり

学校園における土壌環境の現状把握に関する事例研究:さいたま市内の小中学校を例に

 土に触れて草花を愛でる栽培学習が,児童・生徒の健やかな成長に寄与することは言を待たない。新学習指導要領では,平成24年度から中学校の技術・家庭科技術分野において「C.生物育成に関する技術」が必修化された。しかし,教育現場の実情に鑑みると,栽培設備の管理や授業時間の調整等が煩雑であることから,栽培学習が円滑に実施されているとは言い難い。継続的な栽培活動を妨げる要因の中でも,多くの学校において学校園(花壇や畑)が未整備な状態にあるのは看過できない。
 そこで本研究では,小中学校における学校園の土壌環境の現状を把握し,土壌栽培学的な視点から問題点を明らかにし,栽培学習の改善に資することを目的とする。さいたま市内の小中学校においてフィールド調査を実施し,学校園の立地特性や利用状況を記録するとともに,土壌サンプルから物理的・化学的要素を分析し,学校園の土壌環境について栽培教育学的な視点から診断を試みる。

2013年度

岩崎好亮

都市近郊二次林におけるフィールド教育の提案

 近年, 気候変動などの深刻化する環境問題を背景に, 地球環境に対する確かな知識・感性を身につけ, 持続可能な環境を創造する能力を有する人材の育成が重視されている。しかし,近代化の煽りを受けて身近な自然の荒廃が進むなか,児童たちが自然体験活動を行う場所と機会は減少の一途をたどっている。とりわけ都市近郊地域ではその傾向が著しく,限られた二次的自然において効果的な自然体験活動を行える場の提供,ならびに環境を適切に評価できる能力を育む野外学習プログラムの提案が求められている。
 本研究では, 都市近郊に位置する放棄二次林を開拓し, 生き物と環境とのかかわりについて学習できるフィールド教育モデルを考案する。小学生を対象として植生マップを用いた自然体験学習を実践し,環境を適切に評価するためのレディネスの形成をめざす。

大越史保子

作物の成長と土壌の変動特性に関する研究: サツマイモ袋栽培を例に

 昨今,土壌資源の持続的活用の見地から,土壌教育を通して子どもたちが土への関心を高め,土を保全する意識・態度を育成することが期待され,土壌とその教育的価値が見直されつつある。しかし,中学校技術科における既存の栽培学習には,土壌が豊かな生物多様性を育み,生物的作用のほか物理的・化学的作用を呈する動的な存在であることを認識させる視点が欠けている。
 本研究では,作物の成長と土壌成分の季節的な関係に焦点を当て,作物栽培の根幹をなす土壌の重要性を学ぶための実学的な学習プログラムを提案する。異なる土壌条件下でサツマイモを袋栽培し,定植から収穫までの成長過程と土壌成分の季節動態をモニタリングして各土壌条件への応答を分析する。また,その結果を踏まえた実践授業を行い,土壌の季節動態に関する生徒の理解度を評価する。

中田圧史

ハツカダイコンの容器栽培による間伐効果の教材化に関する研究

 持続可能な低炭素社会の実現に向けて地域材の利用が促進されている。この現状に鑑みると,中学校技術科の「生物育成に関する技術」に森林育成の学習内容を盛り込み,生徒たちに適切な森林施業を理解させることの社会的意義は大きい。しかし,実際に生徒を人工林に連れて行き,林業体験活動を実施するのは時間的な制約から困難である。その代替となる汎用性の高い教材や指導法の提案が求められるが,いまだ十分な検討がなされていない。
 そこで本研究では,林業における間伐の手法とその効果について短期間かつ省スペースで実践的・体験的に理解できる教材の開発を試みる。森林の育成を模擬的に再現するためにハツカダイコンのプランター容器栽培を行い,間引きの頻度や強度の異なる条件下において成長量を比較することにより,生徒に森林育成における間伐効果の理解を促す。

廣永育乃

開墾直後の学校園における堆肥を用いた土壌改善に関する研究

 昨年度の中学校技術科「C生物育成に関する技術」の全面実施に伴い,教育現場では自然体験・農業体験活動の充実が図られている。栽培活動は植物を育てる創造的な活動をとおして児童・生徒の身体および精神の健康と発達を促す。しかし,栽培学習の主たる教育フィールドである学校園の多くは2〜3年前に新設されたばかりで,土壌は瓦礫が交じり,肥沃度の低い赤褐色土を呈している。野外で体験的な栽培学習を実施するためには,学校園の土壌を植物栽培に適した性質に改善することが喫緊の課題といえる。
 本研究では,開墾直後の状態にある学校園において,アドニス堆肥を用いた効果的な土壌改善法の定式化について検討する。開墾直後の学校園を想定した圃場を設置し,施肥の量やタイミングの最適性について土壌成分の変化や作物の収量をもとに判断する。

2014年度

大山央人

アンコール遺跡における水生植生の環境マネジメントに関する研究

 ユネスコの世界文化遺産に登録されているカンボジアのアンコール遺跡は,熱帯モンスーン帯に位置しながら,変化に富んだ地形とあいまって多様な景観を呈している。しかし,恵まれた観光資源を有しながらも観光産業の無計画な開発が進み,遺跡内の水域では生活排水による水質汚濁が顕著に認められる。豊かな生物多様性を有する熱帯淡水生態系の保全は喫緊の課題であり,水域における持続可能な環境マネジメントの確立が求められている。
 本研究では,生物多様性と景観,水質保全の観点から,水生植生と環境傾度とのかかわりを明らかにする。アンコール遺跡内の水域をメッシュで区切り,水質調査や水生植生の生態分布調査を実施した上で水生植生の管理による水質改善を試み,持続可能な発展に向けた熱帯淡水生態系の順応的管理のあり方について検討する。

岡村浩美

世界農業遺産地域における小中学校の栽培体験学習に関する研究

 能登半島は,固有の農村文化や景観,生物多様性が温存され,里山里海としての地域システムの重要性が世界的に認められたことから,2011年にFAOの世界農業遺産に登録された。今後は貴重な地域資産を次世代以降へ栽培体験学習を通じて継承し,農業を中心とする当該地域の持続的発展が望まれている。しかし,教育現場では,教員の時間的な制約や指導経験不足から栽培体験学習の継続的な実施が困難な状態にあり,植物育成を学んでも地域や自然とのかかわりに目を向けるにいたらない事例が少なくない。
 そこで本研究では,小中学校教員を対象としたアンケート調査によって能登半島における栽培体験学習の実態を把握し,教育現場に潜在する課題を顕在化することを目的とする。得られた結果を基に世界農業遺産を地域に根付かせるため教育のあり方について検討する。

髙橋信子

ブロッコリー栽培における栽植密度と間引きに関する研究

 栽植密度と間引きは,最適条件で作物を栽培するための主要な管理技術である。これらの技術は作物の生育に大きな影響を与えるが,作物の形状に及ぼす作用については十分に明らかにされていない。このため,中学校技術・家庭科の生物育成に関する技術においても,作物管理を感覚的に行っているにすぎないのが実状である。生物育成の指導上,適正な栽植密度と間引き実施の根拠の提示が求められる。
 本研究では,ブロッコリー栽培をとおして栽植密度と間引きが作物の形状に与える影響を明らかにすることを目的とする。ブロッコリーは利用部位の変化が視覚的に理解しやすい作物である。高栽植密度区と間引き実施区,コントロール区の3条件下でブロッコリーの露地栽培を実施し,各区画の生育状況を観測して,ブロッコリーにみられる形状変化の差異を比較する。

山田晴菜

間引きのタイミングがハツカダイコンの生育に及ぼす影響

 作物栽培では複数の個体を同時に育成すると,各個体の生育が促される助け合い効果と,個体同士で光などを奪い合う競合作用が生じる。これらの効果や作用には,間引きを行うタイミングが大きく関与することが予察実験で示されている。しかし,間引きの遅速が作物の形態に作用する実証例はほとんどない。
 本研究では,間引きのタイミングの違いが作物の生育に及ぼす影響を明らかにし,用途に応じた作物の生産技術の確立をめざす。作物には短期間での栽培が可能なハツカダイコンを用いる。間引きのタイミングを5段階(早め,やや早め,標準,やや遅め,遅め)に区分し,これに無間引きのコントロールを加えた6条件を設定する。各条件下で育成したハツカダイコンにみられる生育の差異を比較し,間引きのタイミングと根茎の形態との関連性について検討する。

2015年度

飯島恵理

技術・家庭科「生物育成に関する技術」における学習内容の枠組みの構築

 中学校技術・家庭科の「C生物育成に関する技術」は,バイオテクノロジーなどの飛躍的な発展がみられる科学技術の影響を受けやすく,その学習対象は流動的といえる。加えて,ワクチン開発の医療技術や,微生物を用いた環境技術なども生物育成の学習内容の範疇に入り得る。しかしながら,学習対象の範囲がいまだ明確に定められておらず,教育の普遍化が求められる。
 本研究では,教科内容学の所見を基に,生物育成において生徒が習得すべき技術的な事実,概念,能力を明らかにし,生物育成に関する技術的素養の枠組みを構築する。高等学校農業科教科書の分析を基盤とし,関連する学会のトピックや書籍,海外の実践事例を包括したうえで,中学校技術科の教科書と照合して生物育成の学習対象を捉え直す。得られた結果を基に,既存の枠組みにとらわれることなく,生物育成と学習対象との関連性の強弱を評価し,生物育成で学ぶべき内容の普遍的な枠組みを構築する。

長岡一樹

能登半島の人工林における下層植生の管理に関する基礎研究

 能登半島は,常緑広葉樹林帯と落葉広葉樹林帯が混交する中間温帯域に位置し,豊かな生物多様性を呈している。一方で,自然と調和した農林水産業が営まれていることから,半島全域が世界農業遺産に認定されている。しかし,人工林は高齢化に伴う農業従事者の減少により放棄されつつあり,下層植生が貧弱となって土壌の流出防止機能や水源涵養機能などの役割を果たせなくなることが懸念される。
 そこで本研究では,能登半島の人工林をフィールドとした植生調査を実施し,林齢による下層植生の差異を明らかにして,人工林における生物多様性の保全に向けた方策について検討する。人工林の林齢を幼齢林,壮齢林,老齢林の3段階に区分し,中間温帯域の人工林にみられる下層植生の動態を明らかにする。本研究は,中間温帯域の人工林における植生マネジメントを提案し,世界農業遺産における森林教育のあり方を検討するための基礎資料の作成に資するものである。

2016年度

大山央人(院)

再湛水した人工貯水池における水生植生の環境マネジメント: カンボジア・アンコール地域北バライを例に

 北バライは1200年頃に建設された貯水池(面積約324ha)であり,漏水してから数百年に渡り放置され,発達した二次林が形成された。しかし,近年の都市計画により,森林が成立したまま2008年に再湛水され,枯死木等に由来する溶存有機物が水中に堆積し,水質汚濁の発生源になることが危惧されている。卒業研究では,北バライに現存する水生植生の植分を類型化し,オオトリゲモが優占する植分でクロロフィル濃度が高まることを示した。修士論文では,北バライにおける生活用水の安定供給をめざした水生植生の順応的管理手法を明らかにすることを目的とする。水生植生の生態分布と水質をモニタリングするとともに,永続的に湛水されているスラスラン(面積約21ha)を比較対象として分析を重ねる。得られた結果を基に,北バライの水生植生と水質の今後の変化をシミュレーションしつつ,持続可能な環境マネジメントの手法について検討する。

阿部千香子

技術科教育の「水産生物の栽培」に関する教科内容学的研究

 昨今,日本では水産生物の育成・養殖への需要が高まりつつあり,中学校技術科の「C 生物育成に関する技術」において,魚介類や藻類といった「水産生物の栽培」も指導対象の範疇に含まれるようになった。しかしながら,中学校で学ぶべき学習対象の範囲はいまだ不明確であり,指導内容の具体的な提案が求められる。
 そこで本研究では,教科内容学の視座から,「水産生物の栽培」において生徒が習得すべき技術的な事実,概念,能力を明らかにすることを目的とする。指導内容の検討にあたり,水産学関係の学会資料や水産学辞典などの学術分野の文献,および高等学校水産科の教科書や学習指導要領などの教育分野の文献から水産生物の生産に関連する用語を抽出し,「水産生物の栽培」にみられる生物生産を構成する普遍的な基礎概念の枠組みを構築する。

石井龍生

知的障害を伴う発達障害児の「遊び」に及ぼすウッドチップグラウンドの効果

 昨年までの研究により,子どもの生活環境における床面の性質の影響は大きく,適切な床素材の選択は子どもの望ましい成長を促す可能性が明らかになってきた。これらの結果は,室内環境のみならず,幼稚園,学校等の室内外で再現させることが可能であり,効果的な教育活動計画の新たな視点としてさらに検討が必要と考えられる。
 そこで本研究では,教育環境における床,地面のもつ機能,価値に関する研究の一環として,知的障害を伴う発達障害児の遊び環境について,行動観察やコーディング法による分析を通じて明らかにするとともに,低付加価値のウッドチップを導入したプレイグラウンドが当該児童らの「遊び」に及ぼす効果,および教員の教育活動に及ぼす影響について検討を試みる。

七五三木侑乃

保育環境の木質化状況が0-1歳児の遊び行動に与える影響

 先行研究では木材を多用した木質空間がヒトの生理,心理反応に及ぼす影響に関する研究が進められている。床材質の異なる2種類の室内空間における幼児およびその母親の心理・行動反応について,木材床ではストレスの緩和,子どもの遊びの集中,多動性の減少など行動反応に差異が生じることが明らかになっている。しかしながら,それらの反応には性差や発達段階による差異がみられるなど,依然として不明な点も多い。
 そこで本研究ではこれまでの研究結果をもとに,0-1歳児を対象とした実験により,木質床,木質環境における子どもの遊び行動の特徴を明らかにし,木質環境と子どもの発達段階との関わりについてさらに検討する。これに加えて,幼稚園・保育園に対するアンケート調査から,木材・木質環境が子どもに与える直接的効果についても分析,検討を試みる。

初手航

田島ケ原サクラソウ自生地における絶滅危惧種の保全生態学的研究

 埼玉県南東部の荒川河川敷に位置する田島ケ原サクラソウ自生地は,約4haの面積を有する国指定特別天然記念物である。そこに生育する植物のうち,サクラソウやノウルシをはじめとする約30種が絶滅危惧種に指定されている。しかし近年は,自生地でノウルシが優勢に繁茂するようになり,競合するサクラソウの個体数を急速に減少させる一因と考えられている。
 本研究ではノウルシの除去実験を行い,20cm除去区,40cm除去区,60cm除去区,対象区の4条件を設定して,サクラソウの成長を比較検討する。除去区ではサクラソウ一個体を中心に据え,設定した半径内に生育するノウルシを地際で刈り取る。各条件下において,サクラソウの個体数や葉面積,植生動態や光合成有効光量子量,土壌環境の変動などをモニタリングして,ノウルシを最小限に除去する手法を明らかにする。

山村瑞穂

中学校技術科「水産生物の栽培」の題材に関する基礎的研究: キンギョ(三尾和金)を例として

 中学校技術・家庭科技術分野にて「生物育成に関する技術」が必修化されたものの,実施される学習は「作物の栽培」が95%以上を占め,「水産生物の栽培」は1%に満たない。これは,「水産生物の栽培」に関する教科内容論の未精査に加えて,汎用的な題材が提案されていないことに起因する。
 本研究では,水産高等学校で実践されているキンギョの栽培に焦点を当てる。キンギョは,ハンドリングしやすく,病気になり難いという育成上の利点がある。その反面,教育的観点からみると,外観の評価にとどまり,育成の知識・技能が反映され難い欠点を有すると予察される。そこで,中学校での授業実践を想定した栽培実験をとおして,キンギョ(三尾和金)の栽培が「生物育成に関する技術」に相応する題材になり得るかについて,その妥当性や課題,教育効果を検証する。

吉澤凌樹

栽植密度の調整がブロッコリー個体群の受光態勢と収量に及ぼす影響

 作物個体群において,栽植密度は作物の形態的変化をもたらし,個体の発育や成長量に大きく関与することが知られる。ブロッコリー栽培では,生育初期に高栽植密度にさらして形成された受光態勢は,間引き後も維持されるものの,収量には大きな影響を与えないことが示されている。個体の形態と個体群の物質生産の関係について,発育形態学の視座からさらなるデータの蓄積が求められる。
 本研究では,ブロッコリー栽培にみられる栽植密度の調整による立葉形質の変化に着目し,収量や品質との関係ついて検討する。株間20cm,30cm,40cmで定植する3対照区,および定植前に株間20cmで密植して受光態勢を形成した後に株間を30cmと40cmに調整する2調整区を設ける。各区における個体の着葉角度と成長量の変化,ならびに収量,外観,味を比較し,密度調整の効果について考察する。

2017年度

岩崎翼

普通教育における動物の取扱いに関する教科書分析

 元来,動物は食料などの生物資源として人々の生活と密接にかかわっていた。それが昨今では,経済動物にとどまらず,愛玩動物,実験動物,遺伝資源に至るまで動物の社会的役割が多様化している。こうした社会変化に応じて,普通教育には動物の存在価値を適切に評価し活用できる素養の醸成が求められると考える。しかし,現行の動物に関する教育では,学習範囲や学習意義が不鮮明であり,その枠組みすら存在していないのが実状といえる。
 そこで本研究では,動物に関する教育のフレームワークの構築をめざし,その手始めとして,現行の普通教育にみられる動物の取扱いを明らかにすることを目的とする。さいたま市の小中学校で採択されている全教科および全学年の教科書を対象とし,動物に関する記載について表記の形態と意図に着目した教科書分析を試みる。

石塚麻祐

異なる施肥量の堆肥を継続して与えた圃場における土壌物理性の比較

 教育現場では自然体験・農業体験活動の充実が図られている。しかし,栽培学習を実践する圃場の多くは開墾して間もなく,肥沃度が低い状態にある。栽培学習を円滑に継続させるためには,土壌構造の発達を促す土壌物理性の改善が急務といえる。
 本研究では教育現場を想定し,開墾直後から異なる施肥量の堆肥を継続して与えた圃場にみられる土壌物理性の差異を比較して,土壌改善に有効な施肥手法を明らかにすることを目的とする。埼玉大学大久保農場の一角に建設廃棄土を敷いた圃場を設置し,無施肥区,過少施肥区,標準区,過多施肥区などの異なる施肥量の7条件を設ける。5年間同量の施肥を続けた各条件において,土壌硬度,土壌含水率,団粒構造といった土壌物理性について,土壌成分や雑草種組成,サツマイモの品質・収量と関連づけて評価する。

窪田翔太

サクラソウ個体数の回復をめざした順応的管理の検討

 埼玉県南東部の荒川河川敷に位置する田島ケ原サクラソウ自生地は,国の特別天然記念物に指定されている。準絶滅危惧種であるサクラソウの個体数(ラメット)は,2003年の最高値を境に現在では半減している。これには,サクラソウを被陰するノウルシが自生地内で卓越してきたことが一因と考えられている。先行研究では,サクラソウを中心に半径40cm円内または半径60cm円内に出現するノウルシを除去すると,サクラソウ個体数の維持・増幅に効果的であることが示されている。
 本研究では,サクラソウ個体数の回復をめざし,より適した順応的管理手法を明らかにすることを目的とする。ノウルシの除去時期を3月下旬と4月中旬に分けて比較検討するとともに,やや遅れて展葉してサクラソウを著しく被陰するコバギボウシも5月上旬に除去して,サクラソウの生育動態を評価する。

加瀬裕也

技術科教育の「動物の飼育」に関する指導内容の基礎的研究

 平成33年4月から全面実施される中学校技術・家庭科技術分野の学習指導要領において,「生物育成の技術」に関する記述の一部が,「作物の栽培,動物の飼育及び水産生物の栽培のいずれも扱うこと」に改訂される。しかし,「動物の飼育」に関しては,生物生産に関する基礎概念が整理されつつあるものの,教科内容学的検討は緒についたばかりである。
 本研究では,技術科教育の「動物の飼育」に関する学習プロセスの構築を目的とする。先行研究の「動物の飼育」の生物生産に関する基礎概念および指導内容の分類に照らして,「作物の栽培」,「動物の飼育」,「水産生物の栽培」の指導内容の共通項を見出し,「動物の飼育」に関する指導内容を時系列で整理する。そのうえで学習プロセスの体系化を図り,「動物の飼育」のカリキュラムスタンダードを提案する。

2018年度

藤井航

技術科教育の「動物の飼育」に関する実践学的研究

 2021年度から全面実施される中学校技術・家庭科技術分野の学習指導要領において,「生物育成の技術」に関する記述の一部が「作物の栽培,動物の飼育及び水産生物の栽培のいずれも扱うこと」に改訂される。しかし,「動物の飼育」に関しては,生物生産に関する基礎概念が整理されたものの,実践学的研究はほとんどない。
 本研究では,技術科教育の「動物の飼育」に関する授業実践モデルの提案を目的とする。有識者や中学校教員と意見交換を重ね,「動物の飼育」の学習に関する指導案を作成する。その後,中学校で授業実践を行い,得られた結果を教育実践学の視座から分析し,評価・改善を通して,技術科教育の「動物の飼育」に関する授業実践モデルを提案する。

小玉竜也

生体電位応答を指標とした薬用植物の栽培環境制御に関する基礎的研究

 近年,安全な食材を安定的に供給できる植物工場の利用価値に注目が集まり,効率の良い植物生産技術の確立が求められている。しかし,植物工場で栽培可能な品目が限られ,計測システムの導入や維持管理にかかる高額な生産コストを回収できないといった課題を抱えている。
 本研究では,植物の生理活性状態と密接に関連し,周囲の環境変化に対して敏感な応答を示す「生体電位」を用いて,薬用植物の最適環境条件を把握することを目的とする。環境変化に応答する植物体内に生じる生体電位のモニタリングをとおして,温度や湿度,光強度,CO2といった薬用植物の栽培環境を制御し,品質や収量への影響を分析することで栽培方法の最適化を図る。この環境制御システムが実用化されれば,高付加価値な薬用植物生産につながる好循環サイクルの構築が期待される。

小林耕太郎

技術科教育における「水産生物の栽培」の授業実践モデルの開発

 昨年度に告示された中学校技術・家庭科技術分野の学習指導要領において「生物育成の技術」に関する記載が「作物の栽培,動物の栽培及び水産生物の栽培のいずれも扱うこと」となった。しかし,「水産生物の栽培」に関しては,生物生産に関する基礎概念が整理されたものの,授業実践モデルの開発はほとんどない。
 本研究では,技術科教育の「水産生物の栽培」に関する授業実践モデルの開発を目的とする。先行研究で明らかにされた「生物育成の技術」の教科内容構成をもとに,学習指導要領や教科書の分析,有識者や中学校教員と意見交換をとおして,「水産生物の栽培」の学習に関する指導案を作成し,中学校現場での授業実践を行う。その結果を教育実践学の視座から分析して評価・改善を図り,技術科教育の「水産生物の栽培」に関する授業実践モデルを開発する。

川井亮太

ESDの視点を取り入れた生ごみ堆肥の授業実践的研究

 現代,食品ロスや食品廃棄物に関する環境問題は看過できない状態にある。これらの問題解決にあたり,教育現場においてESDの観点から生ごみリサイクルを体験する授業実践が有効と考える。ESDとは持続可能な社会の実現構築のために行動できる人の育成をねらいとしている。
 本研究では,まず新学習指導要領における本授業実践の位置づけについて分析する。それにより授業実践を行う教科および学年を絞り込む。そして事前に児童の実態を把握するため,生ごみリサイクルに関するアンケートを実施して児童理解を図る。具体的には,室内学校用生ごみ処理機を活用した生ごみ堆肥づくりを題材とした授業を考案し,小学校で実践する。本授業を通じてESDで求められる能力の定着をめざす。

2019年度

岩崎翼(院)

「動物に関する教育」のフレームワーク構築に関する内容学的研究

 昨今,人と動物のかかわりは経済動物から伴侶動物にいたるまで多様化している。こうした社会の変化に応じて,普通教育において動物の存在価値を適切に評価し活用できる素養の醸成が求められると考える。しかし,現行の教育課程では「動物に関する教育」に関する学習の枠組みが構築されておらず,学習範囲や学習意義が不鮮明である。
 卒業研究では「動物に関する教育」の現状把握をめざし,小中学校の全学年および全教科の教科書を対象として動物に関する記載を分析し,発達段階に応じて教科ごとに動物をどう扱っているかを明らかにした。修士論文ではその研究成果を基に,まずは新学習指導要領を分析対象とし,今後の「動物に関する教育」の展望を把握する。それを踏まえて,授業実践例や海外の教育内容なども視野に入れ,動物について本質的に何を学ばなければならないかといった「動物に関する教育」の内容論について教科横断的な視座から吟味する。

矢島英勝(院)

小学校理科における技術教育的視点を組み込んだ栽培学習の提案

 小学校理科では植物を用いた栽培活動が行われている。しかし,現在の栽培活動において,目的を持って植物を育てるという応用力の育成をねらいとした取り組みは少ない。これは,小学校理科の目標が「科学的な見方・考え方を養う」とされ,原理・法則の理解を重視する一方で,得られた知識を実用する段階まで踏み込まないことに起因するためと考える。原理・法則を学んだ後に技術を実用化する学習を行うことで,小学校理科の学習の意味付けにつながるとともに,見通しを持った課題解決学習の提案が期待できる。
 そこで当研究では,生物育成教育の要素を取り入れた小学校理科の栽培学習プログラムを提案することを目的とする。まず,小学校理科の教科書から「生物に関する学習」の関連用語を抽出し,中学校技術・家庭科技術分野の「生物育成に関する技術」で指導する項目についてどの学年でどの程度学習しているかを把握する。その結果を受けて,生物育成教育に立脚した小学校理科の栽培学習の教科内容について検討し,系統的な学習プログラムを策定する。

中原玲

逆向き設計論による中学校技術科「生物育成の技術」の「材木の育成」に関するカリキュラム設計

 平成29年告示の中学校の学習指導要領技術・家庭科技術分野において「生物育成の技術」に関する記載が「作物の栽培,動物の飼育及び水産生物の栽培のいずれも扱うこと」となった。先行研究により,農林水産における生物育成が学習対象であることから,林業(「林木の育成」)も教育課程の範囲に含まれることが明らかにされている。しかし,「材木の育成」に関するカリキュラム設計はほとんど検討されておらず実践例も乏しい。
 そこで本研究では,生物育成の「材木の育成」のカリキュラムを「逆向き設計論」により作成することを目的とする。教科内容学的研究で示された「林木の育成」に関する教育内容を基に用語を整理し,文献調査や有識者へのヒアリングにより記載項目を精査して,生物育成の「材木の育成」に関する実用的なカリキュラムを提案する。

井戸沼道久

逆向き設計論による中学校技術科「生物育成の技術」の「水産生物の栽培」に関するカリキュラム設計

 平成29年度に告示された中学校技術・家庭科技術分野の学習指導要領において,「生物育成の技術」に関する記載が「作物の栽培,動物の飼育及び水産生物の栽培のいずれも扱うこと」となった。しかし,「水産生物の栽培」に関しては授業実践例が乏しく,実用的なカリキュラムが確立されていない。
 そこで本研究では,「逆向き設計論」を用いた「水産生物の栽培」に関するカリキュラム設計を目的とする。「逆向き設計論」とは教育によって最終的にもたらされる結果から遡って教育を設計し,指導が行われた後で考えられがちな評価を先に構想する手法である。「水産生物の栽培」に関する諸文献を基に新学習指導要領と照合しながら,①求めている結果を明確にする,②承認できる証拠を決定する,③学習経験と指導を計画する,という三段階を経てカリキュラムを設計する。

岩本能梨子

技術科教育の「動物の飼育」と「水産生物の栽培」に関する生徒理解に向けたアンケート分析

 中学校技術・家庭科技術分野の「生物育成の技術」において,「動物の飼育」と「水産生物」が令和3年度から全面実施される。しかし,「動物の飼育」と「水産生物の栽培」に関する授業は,これまでほとんど実施されておらず,教育現場では生徒の実態に応じた指導法の検討が急務となっている。予察調査により,生徒間に飼育経験や知識の差が認められ,教員の発問の工夫や,教材・授業難易度の設定といった課題が顕在化した。
 本研究では,全国の中学生を対象としたアンケート調査を実施し,「動物の飼育」と「水産生物の栽培」に関する生徒理解をはかることを目的とする。学年や性別,地域等の属性と,飼育・栽培に関する経験・知識・意識に関するクロス集計分析により,生徒の実態を詳細に把握し,教育現場における指導計画の立案に資する。

辻原毬乃

田島ケ原サクラソウ自生地における絶滅危惧種保全に関する順応的管理の評価

 埼玉県東南部の荒川河川敷に位置する田島ケ原サクラソウ自生地は,国の特別天然記念物に指定されている。ここに自生する約120種の維管束植物には,サクラソウやノウルシといった約30種の絶滅危惧種が含まれる。本調査地では,2003年をピークにサクラソウ個体数が半減しており,野生絶滅の危機に瀕している。個体数減少の一因として,ノウルシやコバギボウシが卓越し,サクラソウを著しく被陰することが挙げられる。サクラソウ個体数を維持・増幅するため,サクラソウを中心として80cm円内に生育するノウルシを4月上旬に刈り払い,同時期からコバギボウシを定期的に除去する順応的管理が実施されてきた。
 本研究では,4年間継続してきた順応的管理の成果を生態学的視点から評価することを目的とする。研究成果は,本調査地における絶滅危惧種の保全政策に反映される。

佐藤修

中学校技術科の「生物育成の技術」に関する教育実践学的研究

 平成29年告示の中学校学習指導要領技術・家庭科技術分野の改訂に伴い,「生物育成の技術」の学習内容は,「作物の栽培」に加えて,「動物の飼育」と「水産生物の栽培」が必修化される。これまでに,「生物育成の技術」の教育内容に関する検討がなされ,理論としての教科内容論が示されたものの,授業実践にはいたっていない。
 本研究では,技術科教育の「生物育成の技術」に関する授業実践モデルを,教育実践学の視座に立脚して提案することを目的とする。先行研究では「生物育成の技術」に関する授業計画の大枠が示され,「動物の飼育」と「水産生物の栽培」の原理法則に関する指導案が提示された。本研究ではその研究を引き継ぎ,教科内容論を軸に指導案を試作し,中学校での授業実践を通じて,実用的な授業実践モデルおよび教員向けガイドラインの提案を試みる。

古賀竜眞

生体電位応答を指標としたエゴマの最適環境条件に関する基礎的研究

 近年,安全・安心な食材の安定供給を実現する植物工場の可能性に注目が集まっている。しかし,高額な生産コストや栽培品目が限定的といった問題を内包しており,高付加価値な植物の生産システムの確立が喫緊の課題となっている。本研究では薬用植物の一種であるエゴマの生産を研究対象とする。エゴマは必須脂肪酸のα-リノレン酸を豊富に含み,生活習慣病の予防や治療に効能があることが知られ,急速に需要が高まりつつある。
 本研究では,エゴマの生体電位応答を指標として,効率的な栽培環境制御を明らかにすることを目的とする。生体電位測定は,環境変化に応答する植物の活性を簡易に計測する手法である。人工気象室において異なる光環境やCO2濃度などの栽培条件を設け,生体電位の計測を通じて,エゴマの収量や栄養成分量が最大となる栽培環境の制御方法を検証する。

2020年度

霜田航貴

サクラソウ野生種の株数変動に関する保全生態学的研究

 埼玉県東南部の荒川河川敷に位置する田島ケ原サクラソウ自生地は,国の特別天然記念物に指定されている。ここではサクラソウやノウルシなどの絶滅危惧種を含む湿生草原が発達している。1965年からサクラソウの株数調査が毎年行われ,2003年をピークにサクラソウの総株数の減少が報告されている。株数調査は10箇所の永久方形区(10m×10m)で実施され,方形区ごとに株数の変動に差が認められる。その理由には方形区の微環境や土地利用の履歴の違いなどが考えられているが,いまだ特定されていない。
 そこで本研究では,田島ケ原サクラソウ自生地にみられるサクラソウ株数減少の原因解明をめざす。各方形区における株数の経年変化について年代を区分して詳細に解析し,サクラソウの株数変動について,植生や立地,過去の土地利用などと関連づけて明らかにする。

島﨑幹大

開墾直後からの異なる堆肥量の連用が土壌理化学性に及ぼす影響

 教育現場では自然体験・農業体験活動の充実が図られている。しかし,学校園が開墾直後で未整備だったり,赤土・土砂混じりの低肥沃度な土壌であったりする事例が少なくない。栽培学習を長期的に継続するために土壌の改良が不可避といえる。本研究では小・中学校の教育施設を想定し,開墾直後からの異なる堆肥量の連用が土壌理化学性に及ぼす影響を比較して,適切な施肥手法を明らかにする。埼玉大学大久保農場の一角に建設廃棄土を敷いた圃場を設置し,異なる施肥量を連用する7つの区画を設ける。同量の施肥を8年間継続した各区画にみられる土壌硬度や土壌含水率,団粒構造といった土壌理化学性の変化について,作付けしたサツマイモの品質・収量と関連づけて明らかにする。

渡邉真司

高等普通教育における動物の取扱いに関する教科書分析

 動物は現代社会に必要不可欠な存在であり,家族の一員として人々を支えたり,新薬開発の実験に用いられたりするなど,その社会的役割は多様化している。近年ではクローン技術などの新たな生産技術の台頭が著しい。こうした社会の変化に鑑み,学校教育には動物の存在価値を適切に評価し,活用できる素養の醸成が求められると考える。しかし,初等中等教育における動物の取扱いをまとめた先行研究により,現行の動物に関する教育では学習範囲や学習意義が不鮮明であることが示されている。
 本研究では,高等普通教育にみられる動物の取扱いを明らかにすることを目的とする。高等学校の学習指導要領と教科書を対象とし,動物に関する記載について表記の形態と意図に着目した教科書分析を試みる。

2021年度

岡田遥(院)

田島ケ原サクラソウ自生地における湿生草原の植生動態

 埼玉県南東部の荒川河川敷に位置する田島ケ原サクラソウ自生地(面積約4ha)は,国の特別天然記念物になっている。サクラソウ(Primula sieboldii)は,氾濫原などの湿地に生育する多年生草本であり,埼玉県では絶滅危惧種IA類に指定されている。自生地におけるサクラソウの株数は,2003年をピークに減少の一途を辿っている。本研究では植生の動態に着目し,サクラソウを含む種組成の変遷を把握することで,サクラソウ野生種が減少する原因解明をめざす。30箇所の永久方形区(1m×1m)において植物社会学的手法による植生調査を行い,出現種ごとの被度・群度を記録する。2016年〜2020年の期間で4〜8月に毎月実施している植生調査のデータを基に多変量解析を行う。そのうえで,サクラソウに加え,ノウルシ(Euphorbia adenochlora)などの絶滅危惧種,ならびに随伴する種の生育の変化について詳細な分析を行う。また,GISを用いた空間分析により,植生動態について環境要因と関連付けて明らかにする。

森田啓斗

田島ケ原サクラソウ自生地におけるつる植物群落の季節変化に関する研究

 田島ケ原サクラソウ自生地にはオギが卓越した湿生草原が発達している。近年,乾燥化や競合種の分布拡大等の複合的な要因が関与し,サクラソウの株数が著しく減少している。これには,つる植物群落の分布拡大が新たな攪乱を引き起こし,自生地内の植生構造を変容させたことが一因とされている。しかし,サクラソウの株数減少との因果関係はいまだ解明されていない。
 本研究では,早春期から秋期におけるオギ群落とつる植物群落の移行域にみられる植生構造の季節変化を明らかにすることを目的とする。2つの群落の移行域が中心となるように2m×20mのライントランセクトを張り,各ライントランセクト内で2m×2mごとに植生調査を行う。調査から得られた種組成や植生高,植被率などの季節変化に関する知見をもとに,つる植物群落の分布拡大の機構解明をめざす。

河口敬太

スクールガーデンの土壌環境に関する研究 ―初等教育の栽培学習を見据えて―

 現在,教育現場では自然体験・農業体験活動の充実が図られている。しかし,学校の圃場(スクールガーデン)の多くは土壌の肥沃度が低く,栽培学習の実習が困難な状況にある。土壌物理化学性の改良には植物系堆肥の連用が有効であることが知られている。
 本研究では,おからやコーヒー粕,籾殻を主成分とする植物系堆肥を用いて土壌理化学性の改良を図るとともに,小学校教員に向けたスクールガーデンの土壌改良ガイドラインを作成することを目的とする。埼玉大学大久保農場の一角に建設廃棄土を敷いた圃場を設置し,6条件の異なる施肥量の区画を設ける。9年間にわたり植物系堆肥を連用した各条件における土壌の硬度や含水率,団粒構造といった土壌理化学性について,埼玉県内の小学校で育てられている代表的な果菜類・根菜類・葉菜類の各作物の品質・収量と関連づけて分析する。

2022年度

岩崎翼(D院)

初等中等教育における「動物に関する教育」の教科内容論と授業実践モデルの構築

 現在の社会において動物は,畜産物の生産に加え,家族の一員として人々を支えるなど,人間社会に不可欠な存在である。その役割は増々多様化しており,今後より一層,動物とのかかわりについての素養を養うことが,教育に求められるようになると推察される。しかし,動物にかかわる学習内容は,各教科の目標を達成するためのものにとどまっており,「動物について何を学ぶか」といった命題に対する検討はいまだ為されてない。
 そこで,動物の背景に存在する学問領域まで遡って「動物に関する教育」(仮称)の概念構築を行い,そこから,初等中等教育において取り上げるべき内容の抽出をはかる。その後,各学年ならびに各教科の目標に沿った学習内容の設定を行う。その内容に基づいた授業作成および実践を行うことで,理論と実践に架橋した教育システムの構築をめざす。

霜田航貴(院)

技術科教育の「生物育成の技術」に関する授業実践モデルの検討

 中学校学習指導要領(平成29年度告示)技術・家庭科技術分野の「生物育成の技術」において,「作物の栽培」に加えて「動物の飼育」と「水産生物の栽培」が必修化された。同学習指導要領では「作物,動物及び水産生物の育成に共通する基礎的な生物育成の技術の仕組みを理解させることができるようにする」と明記されている。しかし,従前の授業では「作物の栽培」に焦点を当てたものが多く,「動物の飼育」や「水産生物の栽培」に関する授業実践例はいまだ少ない。
 本研究では,この教育内容例に倣って指導計画を定めた上で,教育現場での授業実践を通じて実用性・汎用性の高い授業実践モデルを検討する。具体的には,現職の中学校技術科教員から助言を仰ぎつつ,教育内容例との関連を考慮しながら,授業ごとに指導案とワークシートを作成する。作成した指導案とワークシートに基づき中学校で授業実践を行い,授業の評価・改善を重ねて,「生物育成の技術」に関する授業実践モデルを提案する。

島﨑幹大(院)

スクールガーデンの活用に向けた植物系堆肥の連用に関する基礎的研究

 教育現場では自然体験・農業体験活動の充実が図られている。しかし,栽培学習を実践する圃場(スクールガーデン)の多くは開墾して間もなく,肥沃度が低い状態にある。栽培学習を円滑に継続させるためには,土壌構造の発達を促す土壌理化学性の改善が急務といえる。しかしながら,一般的な農地と異なる小・中学校の圃場において,土壌の具体的な改善策について検討した例はほとんどない。
 卒業研究では,小・中学校の教育施設を想定し,開墾直後からの異なる堆肥量の連用が土壌理化学性に及ぼす影響を比較した。教職大学院の研究では,この調査を継続しつつ,小・中学校圃場の円滑な活用に向けて,圃場の土壌改良に関する教員向けのガイドラインを提示する。そのために,栽培学習に関する教員の知識や,教育現場の栽培環境,とりわけ圃場における土壌の状態について調査する。具体的には,現職教員へのアンケートや,小・中学校の圃場の土壌分析を通じて現状把握を行い,土壌改良にかかる時間や経済性,労力などの条件を加味したうえで,教育現場の実態に即した圃場管理のガイドラインを作成する。

川口峻

農業教育における食品製造の基礎概念に関する内容学的研究

 農業教育の学習範囲は,生物生産のみならず,経営,食品製造,流通,国土保全と幅広い。高等学校農業科「食品製造」の科目では,食料供給の視点から,食品産業を捉え,製造原理や原材料特性,食品の安全性や品質表示等の内容が学習されている。食品加工のみならず経営や流通と関連が深く,地域農産物を使った商品開発やブランド化,六次産業化を通じて地域農業との連携も図られる重要な科目である。しかし,その学習対象や系統性について十分に精査されているとは言い難く,教科内容を教育実践の観点から捉え直す教科内容論の構築が待たれている。
 そこで本研究では,教育内容学的アプローチにより食品製造を構成する基礎概念の枠組みの構築をめざす。食品製造に関わる学術分野と教育分野の文献を対象とした調査により関連用語を抽出し,食品製造に関する原理を析出する。

片山竜二

教科内容論に基づく「作物の栽培」の授業実践モデルの提案

 中学校技術・家庭科技術分野の「生物育成の技術」に関する教科内容論が提唱され,生物生産に関する基礎概念を基にした教育内容例が示されている。現在,教科内容論の具現化に向けて授業実践モデルの検討が進められているものの,「作物の栽培」に関する授業実践モデルはいまだ確立していない。先行研究では全12時間の授業計画が提示されている。本研究では,その2時間目にあたる「作物の栽培」の原理・法則に関して,概念的理解を促す授業実践モデルを提案することを目的とする。教科内容論に基づき指導案とワークシートの草案を作成したうえで,中学校で授業実践を繰り返し,授業の評価・改善を重ねてより汎用性の高い授業実践モデルを考案する。この際,次時の「動物の飼育」や「水産生物の栽培」の原理・法則の授業と共通概念を有する構成となるよう留意する。

寺田瑞彩

乾燥化が進む田島ケ原サクラソウ自生地における土壌水分の定量的評価

 国の特別天然記念物に指定されている田島ケ原サクラソウ自生地では,土壌の乾燥化がサクラソウの株数減少を引き起こす一因と考えられている。これまで,自生地内の植生の異なる地点間においてポータブル土壌水分計を用いた測定値の比較が試みられてきたものの,明瞭な差は確認できなかった。湿地草原という保水性の高い土壌環境では,センサーを地中に固定して土壌水分のダイナミクスを捉える手法が有効と考える。
 そこで本研究では,植生や微地形の異なる6地点に土壌水分センサー(EC-5)を表土2〜3cmの深さに固定し,早春期から秋期にかけて継続的に土壌水分の測定を試みる。測定のインターバルを30分間に設定し,防水データロガー(MIJ-12)に記録する。また,センサーを中心とした1m×1mの方形区を各測定地点に設けて植生調査を実施し,サクラソウの分布状況と土壌水分の関係性を明らかにする。

土田優良

植物系堆肥を連用した圃場における土壌生物性に関する基礎的研究

 昨今の教育現場では,様々な体験活動を通じて子供の成長を促す機運が高まっており,多くの小中学校にて栽培学習が行われている。しかし,栽培学習を実施する学校の圃場の多くは肥沃度が低い状態にあり,栽培学習の円滑な実施に向けて土壌改良が急務といえる。圃場の土壌改良には植物系堆肥の施用が有効とされつつも,学校の圃場を対象とした土壌改良の方策について検討した例はほとんどない。
 本研究では,開墾直後からの植物系堆肥の連用が土壌生物性に与える影響について明らかにすることを目的とする。施肥量の異なる植物系堆肥を10年間連用した埼玉大学大久保農場の圃場において,施肥量の違いによる土壌生物性の差異を比較する。また,同条件下でサツマイモ等の作物を栽培して品質や収量を評価したうえで,学校の圃場における植物系堆肥の効果的な施用方法について検討する。

笠間聡美(長研)

高等学校農業科における他教科・他校種との学びの連携:生き物学習を中心に

 高等学校農業科の学習範囲は,生理・生態などの自然科学から産業の生産性にかかわる社会科学まで幅広い。限られた時間でより効率的に授業を展開するにあたり,小学校から実施される農業に関する教育内容を整理し,生徒理解を図った上で,農業科の教育内容のあり方について検討する必要があると考える。他方,小中学校における生き物を扱う学習(栽培や飼育)は,準備や管理が煩雑なことから時間を割くことが難しくなり,子どもたちの体験不足が懸念されている。また,農業科と関連が深いはずの中学校技術科で栽培学習や飼育学習が導入されて久しいが,それらと農業高校のカリキュラムの接続性はほとんど意識されていない。
 本研究では,すべての学校種で取り組まれている生き物学習に着目し,その学びの連続性や重なりに関する教科内容分析を試みる。学習指導要領を対象とした教科間・校種間の連携に関する文献調査をはじめ,各学校種の教員への聞き取り調査を行い,生き物学習にみられる学びの体系性と系統性を整理し,他教科・他校種の視点から農業科に求められる教育内容を明らかにする。

2023年度

森田啓斗(院)

「生物育成の技術」の栽培計画に関する授業実践モデルの検討

 教科内容学的アプローチにより,中学校技術・家庭科技術分野「生物育成の技術」の教育内容例が提示されている。本研究では,技術分野の教科書3社を参考に,「栽培計画」の授業実践モデルの指導案とワークシートの草案を作成する。中学校学習指導要領(平成29年告示)解説技術・家庭科編技術分野の内容を勘案し,生徒自身の設定した栽培目標の達成に向けて,ミニトマトの栽培計画を立案する学習を設定する。本学習では,まず学校という制約条件の下,生物育成の技術の見方・考え方を働かせながら,適切な栽培方法を選択する。次に,動画教材から管理作業を行う理由に気づき,栽培に必要な管理作業の作業内容とその適期について理解を図る。そして,よりよい栽培計画を構想するために,環境調節の技術や成長を管理する技術を自分なりに選択,工夫させることを意識させる。
 本年度は,作成した指導案とワークシートを基に,実際の中学生約300人を対象とした授業実践を行う。授業実践後にワークシートを回収したうえで,ワークシートの記入内容や授業評価,授業討論会の結果を反映し,指導案とワークシートの改善を重ねることで,より実用性・汎用性の高い「栽培計画」の授業実践モデルを検討する。

岡坂咲季

ラオス農村部における児童の環境意識に関する研究

 東南アジアに位置し,山岳地帯が国土面積の大部分を占めるラオスでは,天然林の過剰伐採や土砂災害が深刻化している。この環境問題を根本的に解決するために,環境教育を通じた人々の意識および行動の改善が求められる。環境教育では発達段階や学習環境に応じたプログラムが必要とされるものの,ラオスの児童を対象とした研究事例は少ない。先行研究のひとつに,ラオスの児童にみられる身近な自然や生物とのかかわりを,ランドスケープ描画法を用いて簡易的に明らかにした試みがある。これを発展させ,より実用的な環境教育プログラムの提案に向けて,ラオスの児童が有する環境意識のより詳細な把握が求められている。
 本研究では,ラオス北部の農村部に暮らす児童を対象とした自然体験や自然に関する知識・意識に関するアンケート調査を行い,児童の環境意識について詳細に分析する。

早川美深

植物工場におけるアカジソの効率的な光照射間隔の検討

 近年,植物工場を活用した安全・安心な食材の安定的供給に期待が寄せられている。しかし,植物工場で栽培可能な品目が限られるうえに,生産コストがかかるといった課題を抱えている。先行研究では,高付加価値のある薬用植物を植物工場で生産する技術開発が進められている。植物の光合成は,照明が消灯から点灯に切り替わった直後にもっとも活性化することが知られているものの,より有効な消点灯の間隔については検討がなされていない。
 本研究では,薬用植物の一種であり,成長が早く,植物工場での栽培が容易なアカジソを対象とし,消灯時間と点灯時間の間隔の違いが,アカジソの成長に与える影響を明らかにする。人工気象室において異なる光照射間隔の栽培条件を設け,生体電位の計測や成長量の評価を通じて,アカジソを効率的に栽培する光環境の制御方法について検討する。

染谷実穂

中学校技術科「生物育成の技術」におけるICT活用に関する研究

 近年,効率的な食料生産を実現するスマート農業が普及しつつある。その人材育成を担う学校教育では,主体的・対話的で深い学びの実現に向けて,タブレット端末などを用いたICT活用による学習の効率化が促されている。スマート農業の技術開発を学習対象とする中学校技術科「生物育成の技術」では,主に生物育成の「技術の見方・考え方」を働かせた実践的・体験的な栽培活動が行われている。しかし,ICTの活用は表計算ソフトや端末のカメラ機能を用いる程度にとどまり,ICTを効果的に活用した授業実践例はいまだ少ない。
 本研究では,「生物育成の技術」におけるICT活用に関する現状を把握するためのアンケート調査を実施する。ICT活用に関する授業の実態や,技術科教員の意識などを明らかにし,「生物育成の技術」の指導上の課題を顕在化して,今後のICT活用のあり方を検討する。

2024年度

手塚美木

児童を対象とした環境教育プログラムに関する系統的レビュー:ラオス農村部での教育実践に向けて

 山岳地帯が国土面積の大部分を占めるラオスでは,森林の過剰伐採や土砂災害が深刻化している。ラオス農村部の児童は森林を身近に感じ,環境問題に対する高い意識を有することが示されているが,ラオスにおける実用的な環境教育プログラムについては十分に検討されていない。他方,日本では自然に接する機会が減少したことを背景に,自然体験活動などの環境教育の実践例が多数報告されている。そこで,日本における環境教育の事例を網羅し,ラオス農村部で活用できるプログラムを探求することが有効と考える。
 本研究では,日本で実践されている児童を対象にした環境教育プログラムをレビューし,系統的に分析することを目的とする。とくに自然体験活動に焦点をあて,国内の実践事例に関する文献を論文検索サイト等から収集し,それらを類型化して環境教育の特性を整理する。

植屋尚子

高等学校農業科「食品流通」に関する基礎概念の枠組みの構築

 高等学校農業科における「食品製造や食品流通」の分野では,農産物の加工や食品流通について食品の生産性や品質向上を経営発展の視点で捉え,持続可能で創造的な農業や地域振興と関連付けて学習する。「食品製造」の教科内容に関しては基礎概念の枠組みが構築されつつあるが,「食品流通」については検討が進んでいない。「食品流通」の科目では安全・安心と顧客ニーズを踏まえた合理的な食品流通に加え,顧客を創造する活動であるマーケティングを重視し,実践的な学習が行われている。農業生産,食品製造,食品流通を一連の流れとして捉える系統的な学習が求められる。
 本研究では,「食品流通」の基礎概念の枠組みを構築し,基礎概念間の相互関連性を構造化することを目的とし,学術分野と教育分野の文献から関連する用語を抽出して食品流通に関する原理を析出する。

笹尾歩

アカジソ栽培における最適なLED光照射間隔の検討

 近年,異常気象の煽りを受けて植物の安定供給が喫緊の課題となっている。植物工場は安定した環境下で植物を生産できる技術として注目されるが,栽培可能な品種が限られ,生産コストが高い課題を抱えている。これらの課題に対し,高付加価値の薬用植物を効率的に生産するシステムの開発が進められている。その中で,植物の光合成は光源が消灯から点灯に切り替わった直後にもっとも活性化することが知られ,消灯時間と点灯時間の長さの違いがアカジソの成長に影響を与えることが示唆されている。
 本研究では,消灯時間と点灯時間の長さの組み合わせを細かく設定してアカジソの最適な光照射間隔を明らかにすることを目的とする。人工気象室内でLED照明を用いたアカジソ栽培を行い,植物生体電位(Von)による生理活性評価と,収穫時の草丈や葉数などの指標に基づいて最適な光照射間隔を見出す。

2025年度

柴崎 爽

田島ケ原サクラソウ自生地におけるサクラソウのラメット数の増減と植生の関係

 田島ケ原サクラソウ自生地(約4ha)は,国内最大級のサクラソウ自生地であり,国の特別天然記念物に指定されている。本自生地では11箇所の永久方形区(10m×10m)において,サクラソウのラメット数調査が1965年から継続的に実施されている。ラメット数は,2003年の推定約235万個体をピークに減少し,2024年には約55万個体まで減少している。減少要因には,乾燥化や競合植物の分布拡大などが複合的にかかわるとされるが,特定には至っていない。
 本研究ではサクラソウのラメット数の経年変化に着目し,現存植生との関係を明らかにすることを目的とする。早春期から秋期にかけて野外調査を実施し,早春期には選定した2つの永久方形区において1m×1mごとに植生調査を行い,植生構造を細かく記録する。加えて,全永久方形区をドローンで定期的に空撮し,植生の季節変動を把握する。これらの植生情報と過去のラメット数の記録を照合し,サクラソウの増減と植生との関連性について解析する。

松戸あい花

田島ケ原サクラソウ自生地における10年間の植生動態

 荒川河畔に位置する田島ケ原サクラソウ自生地は,国の特別天然記念物に指定されている。約4haの面積を呈する湿性草原にはハナムグラ-オギ群集が成立し,サクラソウをはじめとする約30種の絶滅危惧植物種が確認されている。しかし,サクラソウの個体数は減少傾向にあり,その原因はいまだ特定されていない。自生地内ではオギが優占となるものの,つる植物が繁茂する領域も認められ,植物群落ごとに季節変化や経年変化が顕著に異なる。近年の気候変動や浸水の影響を勘案した植生変動の把握が喫緊の課題となっている。
 そこで本研究では,保全生態学の視座から直近10年間にみられる植生の動態を解析し,植生構造とサクラソウの関係性を明らかにすることを目的とする。自生地内に2016年に設置された30カ所の永久方形区(1m×1m)において,Braun-Blanquet法に準拠した群落構造調査,および10年間の植生データ解析を行い,植生構造の変化がサクラソウに及ぼす影響について評価する。

星澤知果

田島ケ原サクラソウ自生地の異なる植物群落間における土壌水分の差異

 国指定特別天然記念物の田島ケ原サクラソウ自生地は,ハナムグラ-オギ群集を植生単位としつつも,立地に応じてオギ群落やつる植物群落などがモザイク状に分布し,群落ごとに異なる植生構造を呈している。本自生地では,植生図の作成により植物群落の分布が把握されつつある。植物群落間で土壌水分が異なる傾向にあり,過度な乾燥が絶滅危惧種の生育に負の影響をもたらすことが示唆されているが,いまだ不明な点が多い。
 本研究は,異なる植物群落間における土壌水分の季節変動パターンの差異を明らかにすることを目的とする。複数の主要な植物群落に,土壌水分センサー(EC-5)を表土2~3cmの深さに固定し,早春から秋にかけて30分間隔で連続的に含水比を測定する。取得したデータは防水データロガー(MIJ-12)に記録し,土壌水分の季節変動パターンを詳細に分析する。加えて,各センサー設置地点の植生を記録し,サクラソウの生育状況と土壌水分の関係性について考察する。

塩崎健太朗

児童の川遊び体験と景観意識に関する基礎的研究:高知県四万十川流域を例に

 高知県を流れる四万十川は,本流にダムを持たない自然豊かな河川であり,2009年には国内初の広域的な重要文化的景観に選定されている。しかし,地域住民にとっては日常的な風景であるがゆえに,その文化的価値が十分に認識されているとは言い難い。地域の将来を担う児童が,地域資源である四万十川での遊びを通して,景観に対する意識をどのように形成・深化させるかを明らかにすることは,持続可能な景観保全に向けて重要な視点となる。
 そこで本研究では,四万十川流域で実践されている河川教育に着目し,川遊び体験が児童の景観意識に与える影響を明らかにすることを目的とする。川遊びの経験の有する児童を対象に意識調査を実施し,児童が四万十川流域のどのような景観要素に価値を見出しているか分析する。得られた結果を踏まえ,児童の景観意識形成の特徴を明らかにしたうえで,地域における文化的景観の継承に向けた教育的示唆と今後の課題について考究する。

桑原敦己

技術教育の視点を高等学校理科に組み込んだ授業実践例の提案:生態系の理解の深化をめざして

 中学校技術科「生物育成の技術」では,作物栽培などの実践的な活動を通じて,生徒の技術リテラシー育成を重視している。一方,高等学校理科「生物」では,理論学習が中心となり,生徒の学習意欲低下が課題となっている。この課題解決にあたり,高等学校理科「生物」の学習内容に技術教育の視点を導入し,理論と実践を融合した実用的な学びのデザインを開発することが有効と考える。先行研究では,中学校技術科と高等学校理科の学習指導要領分析に基づき,品種改良と遺伝子の原理を結びつける学習提案がなされている。
 本研究では,高等学校理科「生物」の生態系の領域を主題とした,技術教育の要素を組み込んだ授業実践例を提案する。具体的には,環境保全型農業における耕地生態系の生物多様性保全などに関する理解を促す授業を考案する。高等学校の「総合的な探究の時間」での実施を想定し,生徒が主体的な探究活動を通して科学と技術の関連性を実感できる授業実践例の提示をめざす。

服部友紀

農業教育における生物活用の基礎概念に関する内容学的研究

 高等学校農業科「生物活用」の科目では,園芸作物の栽培,利用,社会動物とのふれあい,飼育が健康にもたらす効用や生活の質の向上に繋がる療法的な生物の活用が学習されている。プロジェクト学習を通じて,生物活用の意義と役割を理解し,自然環境が人々の健康や生活を改善する健康増進療法の活用,および社会動物や緑の環境が人々に与える社会的特性について,医学療法とは異なる心理的なアプローチを図る科目である。しかし,その学習対象や系統性について十分に精査されているとは言い難く,教科内容を教育実践の観点から捉え直す教科内容論の構築が待たれている。
 本研究では,教科内容学的アプローチにより,生物活用の科目を構成する基礎概念の枠組みの構築をめざす。生物活用にかかわる学術分野と教育分野の文献調査を通じて,関連用語を抽出し生物活用に関する原理を析出する。